研究課題/領域番号 |
23592580
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
羽室 淳爾 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80536095)
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キーワード | 網膜色素上皮組織 / 局所危険感知 / 組織線維化 / リンパ管新生 / 活性化マクロファージ亜集団 |
研究概要 |
マクロファージ(MΦ)は加齢黄斑変性・ぶどう膜炎など眼炎症の遷延化さらには角膜移植後の拒絶反応など広範囲の疾患動態を左右する血管・リンパ管新生に関与する。リンパ管内皮形成に係る活性化マクロファージ亜集団に選択的アポトーシスを誘導し、リンパ管新生を根源から遮断する方法を樹立することを目的とし研究を進めると共に、インフリキシマブを代替できる斬新で独創的な汎用性に優れた医療技術開発の基盤の確立も意図する。MΦに対し独創的な作用特性を有する新規低分子化合物(phenyl-pyrazolopyridine-dione誘導体GRA12228, GRA1230など)ならびに骨格構造類似で活性を有しない化合物(GRA1002)を使用することで、リンパ管新生に関与する炎症反応の抑制・さらにはリンパ管内皮形成に係るMΦ細胞自体のアポトーシスを誘導を確認した。本化合物は分子量180~260ダルトンの低分子化合物であり、抗体であるインフリキシマブなどの生物学的製剤での治療よりも局所作用性、副作用の軽減などが期待される。本低分子化合物はすでにMΦ培養環境に添加することで、MΦからのTNF-αなどの炎症性サイトカイン産生抑制、さらには活性化MΦの選択的アポトーシス誘導が可能であることを確認している。 網膜色素上皮組織の線維化は局所危険感知に対応する眼内増殖性疾患に共通する重篤な病態で、線維化抑制という共通の治療法で複数の疾患を対象に治療介入できる。既にPPARγアゴニスト、HDAC阻害剤についてin vitro評価を終えた段階である。今後、動物モデルでの評価を進め薬物としての可能性を探る。同時に、グルタチオン誘導体でごく微量の経口摂取で四塩化炭素誘導肝組織繊維化を予防治療できる化合物を見出しており、本化合物の適用による早期介入、予防法についても検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構成員の関係で24年度から研究が本格化した。1年経過の状況で、国際学会での口頭発表採択、眼科専門国際誌掲載まで進めることができた。しかしながら、補体、補体抑制因子の動態と病態の対応に係る研究、この軸での薬物効果の検定は25年4月から開始という状況でこの面は予定より遅れている。研究実績の概要には記載していないが、活性化マクロファージ【Mps】 亜集団と網膜色素上皮細胞【RPE】の間に成立する炎症増悪回路の成立【Mps→TNF+TGF→RPE→IL-6→Mps】、その結果としてのVEGFの産生増強、本回路に酸化脂質OX-LDLが危険信号として感知されることなどについては、ほぼデータが出そろい、25年5月国際学会で口頭発表し論文投稿準備段階に進んでいる。後、1年弱でメンバーの力を結集し、危険感知分子としての補体、補体抑制因子の動態と病態の対応については予定を消化できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
組織線維化は眼内増殖性疾患に共通する重篤な病態で、線維化抑制という共通の治療法で複数の疾患を対象に治療介入できる。AMD,PVR,PDRという後眼部の重篤疾患に共通に大きな光明を提供する。対象患者数も我国だけでも10万人を越え、大いに期待される課題である。低分子化合物を用いる繊維化抑制の作用特性の分子レベルでの明確化は、これら加齢性疾患の早期診断技術の提供にも繋がる。 同時に、関連しての下記基礎的取り組みも推進中である。この取り組みの実践的推進により、AMDに係わる、なかんずく早期病態に係わる加齢性要因としての危険感知機能の破綻が明らかになり本研究の目的に大いなる貢献が出来る。 欧米人に比較して日本人に多いとされるARSM SNPsや、CFHSNPs(中でも、日本人に認められる部位)の産物が、補体活性化を抑制する経路(CFH、クラステリン)の機能破綻を誘導する可能性が想定される。CFHの抑制作用の標的である補体のC3b・Bb複合体はMΦを効率良く活性化するが、2種のMps亜集団M1, M2何れに傾斜させるかは不明であるが、貪食能の低下につながる。 本経路には、脂質代謝経路の関与した酸化ストレス産物が深く関与する。この酸化ストレスは、TGFβ産生を介しオートクリン的に網膜色素上皮細胞(RPE)の機能変性(細胞老化、EMT)を誘導する。この過程でRPEの極性が失われ、恒常性を維持した組織ではapical, basolateralと極性を持って分泌される血管新生抑制因子PEDFと血管新生誘導因子VEGFの極性分泌が失われ、黄斑部血管漏出や網膜新生血管新生などの恒常性破綻につながると考えられる。今後、RPEの極性培養法も駆使して、この破綻機構を明らかにし、以降の新医療技術開発につなげる。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は上記の遅れ分の経費を残し、25年度に繰り延べた。25年度は、組織・細胞免疫染色用抗体、RPE上の危険感知分子の動態検出用の抗体、PCRキット、極性培養用のトランスウェル培養チェンバーなど、消耗品代に全額を消化する予定であり、100万円ほど不足するが、教室の共通経費からの捻出を予定している。
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