ステロイドホルモンは、内的および外的要因に反応して副腎や生殖器などの末梢内分泌器官で分泌され、全身の標的器官で生体内の恒常性維持などの生理作用を示す。脳内においても末梢内分泌器官と同様に、プログネノロンやプロゲステロンなど生理活性を示すステロイドが合成されることが報告され、神経ステロイドとして知られるようになった。近年、網膜においても種々のステロイドが合成されることが報告され、神経ステロイドが網膜の神経細胞の発達と分化およびその機能調節に重要な役割を果たすことが示唆されている。本研究は、網膜で産生される神経ステロイドの一連の代謝経路を、ステロイド代謝酵素の局在と発現動態を統合的に解析することによって、網膜の発生と視機能調節に神経ステロイドがどのように関与しているのかを明らかにすることを目的としている。まず第一に、正常ラット網膜において、神経ステロイド代謝に関与する酵素が、網膜を構成する6種類の神経細胞とグリア細胞であるミュラー細胞のいずれかの細胞に存在するのかを特定し、さらに発生に伴う発現の変化を解析することを中心に研究を進めた。これまでに、アンドロゲンの代謝に関与する酵素である5β-リダクターゼについて、特異抗体を作製し、成熟ラットの網膜において、ミュラー細胞の突起と細胞体、および視細胞に発現が認められることなどを示した。本年度において、活性型アンドロゲンやアロプレグナノロンなどの神経ステロイドの代謝に関与する酵素である1型および2型5α-リダクターゼについて、特異抗体を作製し、網膜における発現を免疫組織学的に検討した 。成熟ラットの網膜において、1型は網膜すべての層で陽性反応が認められ、2型は視細胞の内節や内顆粒層、神経節細胞層などに強い反応が認められた。
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