研究概要 |
我々は既に口腔粘膜上皮下組織から間葉系幹細胞に類似した細胞群を抽出しており、この細胞群には神経堤由来の細胞が含まれていることが分かってきた。この神経堤由来細胞をクローニングし、角膜実質細胞に類似した細胞へ分化誘導することで、角膜実質細胞の細胞源となりうることが考えられる。そこで、本年度においてはまず、神経堤由来細胞をクローニングする効率的な方法として、Neuro sphere法を用いて培養を行なった。細胞の培養皿への接着を妨げるため、低接着用の培養皿にメチルセルロースを用いて培養した。培養後1週間から10日でシングルセルから20~50個の細胞塊を作成できた。この細胞塊は通常の培養皿上で増殖させることができた。この増殖させた細胞を解析するため、フローサイトメーターによる表面マーカーの検出を行なった。増殖させた細胞の多くはCD44, CD73, CD90, CD105, CD146, CD166, STRO-1陽性で、間葉系幹細胞に類似していた。また、その多くはCD14, CD34, CD45陰性で、造血細胞由来でないことが考えられる。さらに、CD31, CD106陰性より血管内皮系の細胞でもなく、ファイブロブラストで見られるFSP-1の発現も少ないことが解ってきた。このように今回クローニングして増殖させた細胞は本研究以前に抽出して解析した細胞群と同様の傾向を観察することができた。一方、神経堤由来細胞で認められるCD49d, CD56については発現を検出することができているが、PDGFRαについては今のところ検出出来ていない。よって、今後においてもクローニンングした細胞の解析を行なっていく予定である。また、幹細胞で重要な多分化能を示すため、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化を試みると同時に、神経細胞系への分化誘導、角膜実質細胞への分化誘導も行なっていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の計画は引き続き平成23年度の研究を行うとともに、選定した神経堤由来細胞から角膜実質細胞への分化誘導を行って、最適な分化誘導条件を選定し、分化誘導法を確立する。また、角膜実質細胞への分化誘導を行なうため、始めは今までに報告されている角膜実質細胞維持培地を利用し培養を試みる(Du, Stem cells, 2005; Builles, Biomed Mater Eng, 2006, Yoshida, IOVS, 2005)。より角膜実質細胞に近い分化をする培養条件を選定するため、研究協力者(兼子)により提供される培養器で様々な条件を検討する。この培養器は器内が8区画に分かれ、一度にそれぞれガス濃度を別々に設定するとが出来る。それぞれのガス濃度条件下でbasic fibroblast growth factor (bFGF)などの因子の濃度を振って培養し、分化誘導を試みる。さらに、口腔粘膜上皮下細胞から角膜実質細胞への最適な分化誘導条件を確立するため、上記で様々な条件で分化誘導行った細胞を解析する。解析は角膜で発現するケラトカン、ALDH3A1、ルミガン等の発現を免疫染色ならびにRT-PCRによって行う。コントロールとして角膜実質から分離培養した細胞を用いて比較検討する。分化誘導ならびにデータ解析は研究協力者(比嘉)と協力して行う。
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