研究課題/領域番号 |
23592600
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
山田 昌和 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), 視覚研究部, 部長 (50210480)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 脂質 / プロテオーム / 分析化学 / 涙液 |
研究概要 |
ドライアイの病態解析や新しい治療法の開発のためには、涙液成分の詳細で網羅的な分析が重要と考えられる。本研究では、ミクロ液体クロマトグラフィ(HPLC)とエレクトロスプレー質量分析計(ESI-MS)を用いて、濾紙で採取した涙液試料から蛋白、脂質の網羅的解析を行う。ドライアイ患者の涙液成分の網羅的解析によって病態形成に関与している涙液中の分子をスクリーニングし、疾患マーカーや治療の標的分子を同定することで、ドライアイの新しい治療法に発展させていくことを目的とする。 本年度は正常者とドライアイの重症型であるシェーグレン症候群患者の涙液を用いて、涙液蛋白の網羅的解析とシアル酸の測定を行った。涙液蛋白の解析ではトリプシン消化を行った後にHPLCとESI-MSで分離・分析を行い、Mascotソフトウエアを用いて同定されたペプチドから候補蛋白を半定量的にリストアップした。正常者、シェーグレン症候群患者のいずれからも100程度の蛋白を検出することができた。両者を比較するとシェーグレン症候群患者涙液ではlipocalinやlactotransferrin, lysozymeなど涙液主要蛋白が減少する一方で、Protein S100-A9とMacrophage migration inhibitory factorが増加していることが明らかとなった。Protein S100-A9はマイボーム腺機能不全で増加が報告されており、ドライアイの疾患マーカーとなる可能性があると考えられた。また、シアル酸の測定はムチンから遊離させたシアル酸をDMB試薬で蛍光標識してHPLCで検出することで行った。正常者での涙液中シアル酸濃度は200nmol/mL程度であったのに対し、シェーグレン症候群患者涙液では100-130nmol/mL程度と低下がみられ、ムチン異常がドライアイの病態に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
涙液成分の網羅的な分析として、蛋白に関してはHPLCとESI-MSを用いた方法を確立し、シェーグレン症候群患者 涙液で上昇する蛋白成分としてProtein S100-A9とMacrophage migration inhibitory factorの2つを同定することができた。今後、ELISA法などを用いて多数例で結果を確認していく必要がある。また、候補分子の機能解析なども行い、病態との関連を検討する必要がある。 涙液の安定性に寄与する重要な因子と考えられている可溶性ムチンに関しては、シアル酸を指標とした分析方法が有用である可能性を示すことができた。同一患者でムチンのコア蛋白であるMUC5ACをELISA法で検出する試みも行ったが、検出不能例や測定値のばらつきが大きく、シアル酸の方が指標として優れているようである。今後、症例数を増やして分析を進めて行きたい。 以上から、ドライアイの疾患マーカーとなる分子の候補をいくつか同定することができており、研究計画辞退は順調に進展していると考えている。ただし、疾患マーカーとして確立するにはまだまだ多くのステップが必要であり、今後の研究が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
シェーグレン症候群患者涙液で上昇する蛋白成分としてProtein S100-A9とMacrophage migration inhibitory factorの2つを同定することができた。HPLCとESI-MSを用いた分析結果は半定量的なものであり、ELISA法などを用いて定量的に検討すること、多数例で測定することが必要と思われる。また、シェーグレン症候群以外のドライアイ患者でも同様の検討を行って、疾患マーカーとしてドライアイ全般のもの、もしくはシェーグレン症候群に特異的なものかを検討していく予定である。 涙液中のシアル酸に関しては安定した測定系を確立することができた。今後は多数例で、シェーグレン症候群以外のドライアイ患者を含めて涙液中シアル酸測定を行い、診断や重症度評価のマーカーとしての可能性を検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
涙液サンプルから目的とする成分を抽出したり、前処理したりするには試薬が必要であり、HPLCを用いた分析にも移動相が必要となる。また定量的な測定のためにELISA法を用いる場合には抗体や発色基質などが必要となる。研究費はこれら生化学的分析に必要な試薬の購入に充当される。また、研究成果の発表、公表などの目的で、学会出張費用や出版、印刷費用にも用いられる予定である。
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