研究課題/領域番号 |
23592600
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
山田 昌和 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), 視覚研究部, 部長 (50210480)
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キーワード | 涙液 / 蛋白質 / 脂質 / 分析化学 / プロテオーム |
研究概要 |
ドライアイの病態解析や新しい治療法の開発には、涙液成分の詳細な分析が重要と考えられる。本研究では、濾紙で採取した涙液試料から液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて涙液成分解析を行った。涙液成分解析によって疾患マーカーや治療の標的分子を同定することで、ドライアイの新しい治療法に発展させていくことを目的とする。 本年度はドライアイの新しい治療薬であるジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液を投与した前後の涙液試料を用いて、涙液蛋白の網羅的解析と可溶性ムチンの指標としてシアル酸の測定を行った。涙液蛋白の解析は総蛋白、分泌型IgA、Lactoferrin、Lipocalin-1、Lysozymeとムチンの指標としてMUC5ACを比色法、ELISAまたはHPLCで定量した。シアル酸の測定はムチンから遊離させたシアル酸をDMB試薬で蛍光標識してHPLCで検出することで行った。正常者10例でのDQS単回点眼では、sIgA濃度の減少以外には、点眼前後で涙液蛋白成分に有意の変化はなかったが、シアル酸濃度は点眼前の133±43 µg/mL から点眼後5分で165±33 µg/mL と一過性の増加が見られた。ドライアイ患者25例に対する4週間のDQS点眼治療前後では、涙液蛋白ではいずれの測定値にも変化はみられなかったが、シアル酸濃度は点眼前の49±40 µg/mL から点眼後に77±93 µg/mL とDQS点眼後に有意に増加していた。したが、15分以降は両者とも点眼前と変化が見られなくなった。 涙液中シアル酸濃度はドライアイ患者では低下しており、ムチン異常がドライアイの病態に関与していること、シアル酸濃度はDQS点眼によって増加することが示された。以上からドライアイの病態を示す涙液マーカーとしてシアル酸が良い指標となる可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
涙液成分の網羅的な分析として、前年度にHPLCとESI-MSを用いたプロテオーム解析を行い、シェーグレン症候群患者涙液で上昇する蛋白成分としてProtein S100-A9とMacrophage migration inhibitory factorの2つを同定した。しかし、多数例で検討するためのELISA法による測定が確立できておらず、多数例での結果確認ができていない。測定方法を確立して、上記の2つの蛋白分子がドライアイの疾患マーカーとなりうるか検討を進める必要がある。 正常者、ドライアイ患者でジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液の投与前後の涙液試料を用いて涙液蛋白の網羅的解析とシアル酸の測定をHPLCで行った結果、涙液の主要な蛋白には大きな濃度変化がみられない一方で、シアル酸濃度はドライアイ患者では低下しており、DQS点眼治療によって増加することが示された。シアル酸は涙液の安定性に寄与する重要な因子と考えられている可溶性ムチン由来であり、ドライアイの病態を示す涙液マーカーとしてシアル酸が良い指標となる可能性があると考えられた。今後、症例数を増やして分析を進めて行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
涙液蛋白の網羅的解析(プロテオーム解析)により、シェーグレン症候群患者涙液で増加している蛋白としてProtein S100-A9とMacrophage migration inhibitory factorの2つを同定している。HPLCとESI-MSを用いた分析結果は半定量的なものであり、ELISA法などを用いて定量的に検討すること、多数例で測定することが必要となる。今後、ELISA法による測定方法を確立して、上記の2つの蛋白分子がドライアイの疾患マーカーとなりうるか検討を進める必要がある。また、シェーグレン症候群以外のドライアイ患者でも同様の検討を行って、疾患マーカーとしてドライアイ全般のもの、もしくはシェーグレン症候群に特異的なものかを検討していく予定である。 涙液中のシアル酸に関しては安定した測定系を確立することができている。シアル酸濃度はドライアイ患者では低下しており、ドライアイ治療薬であるジクアホソルナトリウムによって増加することが示された。ドライアイの病態を示す涙液マーカーとしてシアル酸が良い指標となる可能性があり、診断や重症度評価、治療効果評価のマーカーとしての可能性を更に検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
涙液サンプルから目的とする成分を抽出したり、前処理したりするには試薬が必要であり、HPLCを用いた分析にも移動相が必要となる。また定量的な測定のためにELISA法を用いる場合には抗体や発色基質などが必要となる。研究費はこれら生化学的分析に必要な試薬の購入に充当される。 また、研究成果の発表、公表などの目的で、学会出張費用や出版、印刷費用にも用いられる予定である。
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