研究課題/領域番号 |
23592603
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
近藤 峰生 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80303642)
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研究分担者 |
寺崎 浩子 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40207478)
加地 秀 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (30345904)
米今 敬一 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (40362256)
上野 真治 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80528670)
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キーワード | 網膜電図 / 動物モデル / 網膜色素変性 / トランスジェニック |
研究概要 |
本年度は視細胞が変性した網膜におけるフリッカーERGの起源について研究した。フリッカーERGの記録には、赤色LED刺激を搭載したGanzfeldドームを用いた。フリッカーERGの刺激頻度は2, 4, 8, 12, 16, 24, 32, 48, 64 Hzの9段階とし、ノイズの少ない波形が得られるまで合計10-20回の加算平均を行った。その後、まずON型双極細胞を遮断する目的で代謝型グルタミン酸受容体のagonistであるL-2 amino-4-phosphonobutyric acid (APB)を硝子体内に注入し、60-90分後に再び2-64 Hzの刺激頻度でフリッカーERGを記録した。さらに、その後にOFF型双極細胞を遮断する目的で、AMPA/KA型受容体のantagonistであるcis-2,3-piperidine- dicarboxylic acid (PDA)、を硝子体内に注入した。以上のフリッカーERGを全て記録したあとで、錐体系回路のON経路成分、OFF経路成分、視細胞成分、の3つの成分の分離を行った。薬物注入前の波形からAPB注入後の波形を差し引くことによって、まずON経路成分が抽出される。さらに、APB注入後の成分からPDA/CNQX注入後の波形を差し引くことによってOFF経路成分が抽出される。そして、APBとPDA/CNQXを投与後の最終波形は、視細胞成分と考えることができる。その後、この3つの成分をフーリエ解析し、それぞれの刺激周波数において基本周波数成分を振幅と潜時(phase)で表し、これをベクトルで表現した。この結果により、視細胞が変性した網膜のフリッカーERGの中に錐体視細胞由来の電位は極めて少量のみであり、フリッカーERGの起源は主に錐体のONおよびOFF型双極細胞であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の目的は、視細胞変性網膜におけるフリッカーERGの起源を明らかにすることであった。申請者は米国留学中にERGの錐体反応の1つであるフリッカーERGの起源を研究し、いかなる刺激条件においても30Hzのような高速フリッカーERGの起源はON型双極細胞とOFF型双極細胞であり、この2つの細胞からの応答のベクトル和で表現できることを報告した)。しかしながら、網膜色素変性のように視細胞が疾患により徐々に変性していく網膜においてON型双極細胞とOFF型双極細胞の振幅と位相がどのように変化するかはこれまで不明であった。その理由は、これまで広く用いられてきたマウスやラットではフリッカーERGにOFF型双極細胞がほとんど関与していないためである。今回我々はヒトと同様にON型とOFF型の双極細胞の電位によってフリッカーERGが形成されているウサギの網膜色素変性モデルを作成することに成功したので、このウサギにAPBやPDA/CNQXを作用させることによって初めて網膜色素変性のフリッカーERGの起源の解釈を解明することができると考えたわけである。本年度は、薬物を硝子体内に注射することによりフリッカーERGの起源として錐体はほとんど関与しておらず、錐体ON型双極細胞とOFF型双極細胞に起源があることがわかったため、ほぼ本年度の目的は達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、視細胞が変性した網膜における錐体ERGb波の起源について研究する。まず、錐体a波記録時と同様に30 cd/m2の白色背景光下で杆体の活動を抑制した条件で、Ganzfeldドームを用いてキセノン光を用いて種々の刺激強度でb波を記録する。刺激強度は、錐体ERGのb波が初めてみられる強さから、b波の最大刺激まで(-1.5-2.0 log cd-s/m2)を0.5 log単位でneutral densityフィルターを使って変化させる。ノイズの少ないb波曲線が得られるまで、10-20回の加算平均を行う(図3)。その後、まずNa依存型スパイク性ニューロンを遮断する目的でTetrodotoxin(TTX)を硝子体内に注射して、薬物が十分に作用したと考えられる60-90分後に再び錐体ERGのa波を記録する。さらに、引き続いて硝子体内にD-AP7を注入する。D-AP7はN-methyl-D-aspartate(NMDA)作動型のグルタミン酸受容体を遮断するため、TTXとともに注入することによってほぼ全ての網膜内3次ニューロンを遮断することができる。この操作により、野生型およびTgウサギの錐体ERGのb波に占める3次ニューロンの関与の度合いを比較することができる。以上の実験によって、視細胞変性網膜における、錐体ERGのb波に双極細胞以外の3次ニューロンがどの程度関与しているのかを定量することができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
おおよその使用計画は以下の通りである。旅費・宿泊費で40万円、動物購入費として20万円。試薬や実験道具として15万円。その他雑費で5万円
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