研究課題
眼球の裏側である球後領域は乳頭部周囲で短後毛様動脈枝がその栄養をつかさどり視神経乳頭を支えるlamina cribrosaという強膜篩状構造は眼内圧を支える重要な組織であるが、これまで十分な観察手段がなかった。そこで本研究に置いて、われわれは球後領域微小血管系の描出をめざした放射光および回転セリウム陽極疑似単色X線診断装置を開発している。 平成23年度はラットを全身麻酔下で頚部切開し気道確保ののち総頚動脈、内頚動脈を露出しP10チューブのカテーテルを内頚動脈に挿入し、内頚動脈分岐後方1cmで頭蓋内分枝血管を結紮することで血流を眼動脈に限局した。しかし、作業中リーク血管による出血のため、個体の出血死が多数発生したが、脳動脈瘤クリップにて止めることに成功し個体死亡率は減少した。その後、造影検査で血流の限局と、漏れのないことを確認ののち造影剤含有ビーズを眼球へ流し、眼球摘出固定しファントムを作成することを予定していたが、年度途中に本学動物実験施設造影室での検査が不可能となり年度内の局所血管解剖の確認に支障を来した為、局所生体観察を優先し別の実験系を用いた。 使用動物はより安価なマウスを用い、全身麻酔下で動物実験施設内の多光子励起顕微鏡にて視神経乳頭部を観察した。多光子励起顕微鏡は生体深部を顕微鏡レベルで観察する装置であるが、到達深度には限界があり、視神経乳頭などの眼窩深部観察の報告はない。そこで、今回マウス眼球の脱臼回旋し工作用パテにて眼球周囲に貯水し、対物レンズを近づけ、深部にある乳頭観察に成功した。染色観察系は血管内皮とアストロサイトを染色するスルフォローダミンで乳頭血管およびアストロサイトの立体染色に成功した。その結果、乳頭血管網は乳頭全体にきめ細かく存在することが確認できた。
3: やや遅れている
本年度は、カテーテル挿入と血管結紮により血流を眼動脈に限局できたことは計画通りである。しかし、造影剤含有ビーズを充填した後、眼球摘出固定しファントムを作成する計画でその前に、生体で血流の限局を確認する造影検査が必要であったが、到達しなかった。理由としてあげられるのは、計画当初においては医師免許があることで使用を認められていた動物実験施設内の開放型造影室での造影検査施行に対して、実験施設側から医師が病院外での造影検査使用することに関しては、新たにエックス線作業主任資格を外部資格試験を受検して取得することが必要との指摘があったことである。外部試験は開催数も限られ予定通りに計画を推進するには大きな問題となった。そこで、使用に外部資格の不要である閉鎖型CT造影装置での撮像に切り替えたが、解像度が思わしくなく成果が得られなかった。そこで、年度内の実験計画進行に支障を来した為、局所血管解剖の生体観察を優先し、多光子励起顕微鏡での実験系で確認することとして観察に成功した。しかし今後、本技術を中動物からヒトへの応用するには、観察ボリュームの小さい多光子励起顕微鏡では十分に観察できないこと、最終的に放射光での観察を目標としているため、再度造影検査を用いる実験計画に立ち返る必要がある。 また、研究分担者はジアテルミーの血管熱傷による還流障害にて眼圧上昇させる別モデルを作成しているが、発生効率が低い状態が続いており、緑内障高眼圧モデル作成は遅れている。
本年度は使用動物はラットと同じ齧歯類のマウスを用いることで解剖学的相同性を保ち局所血管解剖を確認できたが、最終目標がヒトの乳頭観察へ応用できるためには、より中大動物モデルで実験遂行することが必要である。そこで今後、エックス線作業主任資格に関する問題については、研究に資格者が立ち会うことで可能となることが確認されたため、資格者に研究協力者要請することを計画している。 また、ジアテルミーの血管熱傷による還流障害にて眼圧上昇させるモデルもまた効率が悪く、より効率が良いことが報告されたレーザー照射によるマウスモデルを作成する技術を獲得する。すでにこの技術を持っている研究室に依頼し、技術トランスファーについて許可をいただいている。 以上から23年度の問題点は解決するため、本来の計画に立ち返ることができると判断している。
平成24年度はラットを全身麻酔下でP10チューブカテーテルを内頚動脈に挿入し、内頚動脈分岐後方1cmで頭蓋内分枝血管を結紮することで血流を眼動脈に限局した後、造影検査確認ののち眼球摘出固定しファントムを作成を予定している。ファントムモデルにおける球後性眼動脈微小血管の描出条件で、さらに生体実験へ移行する。 放射光施設Spring8での撮像では脳血管で20μmの血管まで定量的測定が可能であるため、薬物反応が測定可能である。球後の微小血管も流入部は同様の血管径であるため、緑内障薬理作用をもつ薬物(神経保護作用が報告されているベタキソロール、ニプラジロール、ブリモニジン、チモロール、ニルバジピン、ロメリジン)の血管反応を観察する。ついで、緑内障モデルラットの脳動脈造影を実施し、眼動脈から球後性眼動脈微小血管および脈絡膜血管網、網膜血管の描出が可能かどうかを検証する。特に高眼圧による球後性眼動脈微小血管系変化が神経の変化より先行する可能性を検証する。これまで生体で観察が困難な深部微小血管の描出に成功すれば、直接視神経を支配する循環状態と薬物の影響を正確に捉えることができる。それにより、循環改善を解した神経保護薬の開発に帰すると考えられる。以上の実験に必要なマウス、ラットといった実験動物と薬物購入に研究費を用いる予定である。
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