研究課題/領域番号 |
23592611
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 典彦 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 特任准教授 (80264654)
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キーワード | 再生医療 / 動物実験代替法 / 角膜 / 培養角膜上皮 / 幹細胞 / 組織幹細胞 |
研究概要 |
眼刺激性物質の網羅的評価を行う際、現在の評価系では1ウエルで1検体を評価する。培養角膜上皮細胞を1ウエル作製するためには多大な時間と労力を要する。さらに各ウエル間の性能のばらつきが大きいため被検物質の評価の際には多くの母数を必要とする。多数の培養角膜上皮を作製するとさらにばらつき大きくなるという悪循環が生じる。 多数のウエルを使用する眼刺激性物質を網羅的に評価するのは困難である。 そこで当該年度は安定しなおかつ同時多検体の評価が可能な評価系の作製を行った。従来法どおり6ウエルプレート内の各トランスウエルに培養角膜上皮シートを作製した。細胞シートはディスク様に直径2mmの皮膚生検用トレパンで打ち抜かれた。ディスク様の細胞シートは別に用意された6ウエルプレート内のコラーゲンゲル上に6つ静置された。被検物質の暴露は従来と同様に点眼の要領でおこなった。ディスク片縁から伸展する培養細胞を観察し1ウエル内に静置された6つのディスクからの平均伸展面積を比較した。被検物質には塩化ベンゼンザルコニウム(以下BAC)を0.01%から0.00001%までPBSで10倍階段希釈された溶液を使用した。正常対象にはPBSを使用した。 その結果、0.00001%BAC溶液では正常対象のPBSと同様な伸展が見られた。0.0001%BAC溶液では伸展の障害が見られ、0.01%では伸展が見られなかった。伸展の障害の程度はBAC溶液の濃度に比例した。 培養角膜上皮シートディスク片縁からの細胞伸展を観察することで被検物質の障害性を判定することができた。感度は従来法であるシート中央部にアルカリ処理で欠損部を作製しその修復を観察する方法と同等であった。1ウエルに複数のディスクを配置することで同一条件での母数の多い評価が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安定して多くの被検物質を評価する系の開発に成功した。従来法では培養角膜上皮シート上の内方への欠損修復を観察した。新しい方法では外方への細胞伸展を観察することで同等の感度を得ることに成功した。 東京工業大学での新研究部門立ち上げに期間を要したが概ね順調に進展した。この理由は従来法での欠点を明確にしていたこと、実験結果を正確に分析していたこと、発想を速やかに具現化したことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
多数の被検物質を安定して評価する方法の開発に成功した。今後は 1. 各種物質の評価、および 2. 評価方法の改善をおこなう。 被検物質として、眼刺激性物質パネル、既存の眼刺激性や毒性が予想される点眼薬一式、ドレーズ試験評価用パネルを用いて評価をおこなう。細胞の増殖性に優れ、なおかつディスクとして可搬性にすぐれた培養細胞基質の検討をおこなう。 眼刺激性試験でドレイズ試験の試用は本年限りで全廃される。本邦から代替法として提案するべく国、香粧品や製薬会社との打ち合わせを進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度に横浜市立大学から東京工業大学へ転出し新たな研究部門を設立した。転出、新研究部門の準備、立ち上げの期間が生じた。当該年度で支出はなかったが前年度の試薬、器具類で十分な研究を遂行することが可能であった。 未使用額含めた研究費は以下のように使用する。培養角膜上皮細胞シートを用いた実験に必要な試薬および使い捨て器具の購入に物品費を使用する。得られた成果の国内および国外での報告に旅費を使用する。論文投稿にその他の経費を使用する。
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