研究課題/領域番号 |
23592615
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
慶野 博 杏林大学, 医学部, 准教授 (90328211)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | レチノイド / 視神経炎 |
研究概要 |
視神経脊髄炎(neuromyelitis optica;NMO)、特に抗アクアポリン4 (AQP4)抗体陽性視神経炎は従来の多発性硬化症(MS)や特発性視神経炎と異なり、視神経炎の再発を繰り返し視機能の回復が極めて不良な疾患である。本研究課題では難治性視神経炎の動物モデルとして知られる実験的自己免疫性視神経炎(experimental autoimmune optic neuritis: EAO)を用いて、近年、新たな免疫制御分子、および神経保護分子として注目されているレチノイドであるレチノイン酸受容体(retinoic acid receptor:RAR)の活性本体であるレチノイン酸、またRAR-α/βの選択的アゴニストである合成レチノイドAm80を用いて炎症抑制効果について検討を行った。免疫当日から、免疫後21日目まで隔日でレチノイン酸(200μg/0.1ml)を腹腔内投与、対照群にはレチノイン酸を溶解する際に用いたDMSO(0.1ml)を同様の期間投与、免疫後21日目に屠殺し、眼球と視神経を摘出、視神経炎の発症を病理組織学的に検討し、炎症細胞の浸潤の程度で重症度をスコア化した。その結果、対照群では平均炎症スコアが1.62、レチノイン酸投与群では0.95であり、レチノイン酸投与群で炎症スコアの有意な低下がみられた。また合成レチノイドAm80を用いても同様の効果が確認された。さらにAm80投与による視神経局所における炎症抑制効果を検討するため、対照群とAm80投与群から視神経を採取し、網羅的な遺伝子発現解析を行ったところラジカルスカベンジャーの一種であるsuperoxide dismutase 1 (SOD1)の発現がAm80投与群で5.3倍の発現上昇がみられた。これらの結果からレチノイン酸受容体が視神経炎における治療標的分子となる可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)レチノイドの活性本体であるレチノイン酸の腹腔内投与、およびレチノイン酸受容体(retinoic acid receptor:RAR)-α/βの選択的アゴニストである合成レチノイドであるAm80の内服投与によって実験的自己免疫性視神経炎に対する炎症抑制効果が確認された。2)レチノイン酸の全身投与による実験的自己免疫性視神経炎抑制機序の検討:免疫後、14日目に頸部リンパ節細胞を採取し、抗原として用いたMOGペプチドにて刺激培養、培養開始72時間後にBrd-Uを加え、リンパ球増殖能、また培養上精中のIFN-γやIL-17、抑制性サイトカインとして知られるIL-10の産生の測定は平成24年度に行う予定である。3)レチノイン酸の全身投与によるFoxp3陽性制御性T細胞の増加の有無:レチノイン酸投与群と対照群において脾臓を摘出し、Foxp3陽性制御性T細胞の増加の有無について比較したところ有意な差は認められなかった。4) マイクロアレイによる神経網膜保護分子の発現解析:摘出した視神経からトータルRNAを抽出後、吸光度計にてOD値を測定し、RNAの収量を確認後、、CodeLink Mouse Genome Arrayを使用し、Am80群、対照群の視神経における遺伝子発現量について網羅的に比較したところ、ラジカルスカベンジャーの一種であるSOD1の発現がAm80投与群で5.3倍の発現上昇していた。また制御性T細胞の機能に重要な作用を示すIL-2やCTLA-4などの分子の発現がAm80投与群で高い傾向を示した。上記の結果から平成23年度に施行予定であった実験はほぼ予定どおり遂行され、概ね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
A. レチノイン酸、および合成レチノイドAm80の全身投与(誘導相)による実験的自己免疫性視神経炎に対する炎症抑制効果の作用機序の検討1) レチノイド投与群と対照群から免疫後14日目に所属リンパ節細胞採取、MOG抗原にて刺激培養しIFN-gやIL-17、IL-10の産生についてELISA法を用いて検討する。2) 所属リンパ節細胞における免疫関連遺伝子の発現の検討:レチノイドによる炎症抑制効果の作用機序を明らかにするため、サイトカイン、ケモカイン、接着分子などの免疫関連遺伝子の発現についてApplied Biosystems社のマウスimmune arrayを用いて網羅的に検討を行う。3)レチノイン酸、および合成レチノイドであるAm80による神経保護効果を評価するために視神経におけるmyelin basic protein (MBP)やneurofilament(NF200)の発現について免疫組織染色にて検討を行う。またLFB(Luxol fast blue)染色にて、視神経髄鞘の破壊の程度について組織学的に評価する。4) 視神経へのマイクログリアの浸潤を確認するためIba-1の発現を免疫組織染色にて検討する。B. レチノイン酸、および合成レチノイドAm80の全身投与(効果相)による実験的自己免疫性視神経炎に対する炎症抑制効果の検討これまでのところ免疫当日からレチノイドを投与することにより実験的自己免疫性視神経炎が抑制されることが確認された。次に視神経炎のeffector細胞が誘導されてから、すなわち12-14日目前後から(2)で用いたレチノイン酸(200μg/0.1ml)、またはAm80を投与開始し、免疫後25日目で屠殺、視神経を摘出、病理組織標本を作成し組織学的に検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1)上記実験の施行にあたりC57BL/6マウスを120-150匹程度購入予定であり、マウス購入費として30万円程度を予定している。2)レチノイドによる炎症抑制効果の作用機序を明らかにするため、サイトカインに加えて、ケモカイン、接着分子などの免疫関連遺伝子の発現をApplied Biosystems社のマウスimmune arrayを用いて検討予定である。array購入費として20万円を予定している。3) レチノイド投与群と対照群の所属リンパ節細胞におけるIFN-gやIL-17、IL-10の産生についてELISA法を用いて検討予定である。ELISAキット購入費として20万円を予定している。4)神経保護効果を評価するために視神経におけるMBPやNF200の発現、視神経へのマイクログリアの浸潤を確認するためIba-1の発現について免疫組織染色を予定している。各種分子に対する1次抗体、2次抗体、また免疫染色の必要な各種試薬購入に20-30万円を予定している。5)実験的自己免疫性視神経炎の誘導のためには合成MOGペプチドが必要不可欠である。現時点では50mg程度のペプチド合成を予定しており、合成費として30万円前後の費用を見積もっている。6) レチノイン酸、Am80の全身投与によるFoxp3陽性制御性T細胞の増加の有無について脾臓と所属リンパ節細胞のFoxp3陽性制御性T細胞の増加の有無をフローサイトメーターを用いて検討する。Foxp3染色キット購入のため10万円を購入費として予定している。さらに各種培養に用いるピペット、チップ、フラスコ、チューブなどの購入費用として約10万円を予定している。
|