研究課題/領域番号 |
23592615
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
慶野 博 杏林大学, 医学部, 准教授 (90328211)
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キーワード | 自己免疫 |
研究概要 |
視神経脊髄炎(neuromyelitis optica;NMO)、特に抗アクアポリン4 (AQP4)抗体陽性視神経炎は視神経炎の再発を繰り返し視力予後不良な疾患である。その発症には液性免疫を主体とした免疫学的機序が深く関与していることが知られており、副腎皮質ステロイドパルス療法、血漿交換療法などの従来の治療法に加えて、新たな治療法の早急な開発が望まれている。本研究課題では難治性視神経炎の動物モデルとして知られる実験的自己免疫性視神経炎(experimental autoimmune optic neuritis: EAO)を用いて、近年、新たな免疫調節分子として注目されているレチノイン酸、またレチノイン酸受容体(retinoic acid receptor:RAR)の活性本体であるRAR-α/βの選択的アゴニストであるAm80を用いてレチノイドの炎症抑制効果について検討を行った。 その結果、1) EAO誘導期からレチノイン酸を投与した群では、対照群に比べて視神経炎スコアが有意に低下、2) 免疫後21日目に採取したリンパ節細胞の培養上精中のIFN-g、IL-17はレチノイン酸投与群でともに有意に低下、3) EAO発症期からレチノイン酸の投与を開始した群では対照群と比較して視神経炎スコアの有意な低下はなし、4) EAO誘導期からAm80を投与した群では、対照群に比べて視神経炎スコアが有意に低下、さらに摘出した視神経を用いて免疫組織染を行ったところmyelin basic protein (MBP)陽性像が確認され、単位面積あたりのMBP陽性領域が対照群に比較してAm80投与群で多く残存していた。以上の結果からレチノイン酸、Am80による視神経炎の炎症抑制効果、Am80の視神経保護効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題について平成23年度、平成24年度までに下記の1)から6)について実験結果を得た。1) レチノイン酸の全身投与(視神経炎誘導期)によるEAO抑制効果、2) レチノイン酸の全身投与(視神経炎誘導期)による実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE) 抑制効果、3) レチノイン酸の全身投与(視神経炎誘導期)によるEAO抑制機序の検討(リンパ節細胞培養上精中のIFN-g、IL-17の抑制効果)、4) Am80の全身投与(視神経炎誘導期)によるEAO抑制効果、5) EAO誘導視神経を用いたマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析、 6)Am80の全身投与(視神経炎誘導期)による神経保護効果(摘出した視神経におけるMBPの免疫組織染色) 上記の結果からレチノイン酸、レチノイン酸受容体(retinoic acid receptor:RAR)の選択的アゴニストAm80がマウス実験的自己免疫性視神経炎スコアを有意に低下することが確認された。 さらに免疫組織染色にて視神経におけるMBP陽性像がAm80投与群において対照群に比べて高頻度に観察されAm80による視神経保護効果が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ、Am80を免疫当日から投与すると、マウス実験的自己免疫性視神経炎が抑制されることが確認されたが炎症細胞がすでに誘導された時期からAm80を投与することで視神経炎が抑制可能か評価することは臨床への応用を検討していくうえで重要な知見となりうる。さらに我々は以前にぶどう膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜炎においてレチノイン酸、Am80を投与すると、ぶどう膜炎が抑制され、さらに所属リンパ節中においてIFN-g、IL-17の産生が抑制されること、またCD4陽性IL-6受容体陽性細胞が減少することを報告した (Keino et al. IOVS 2011)。平成25年度はAm80によるマウス実験的自己免疫性視神経炎に対する炎症抑制効果を検討するために、所属リンパ節細胞を採取し抗原で刺激培養した後、培養上精中のIFN-g、IL-17産生量をELISAにて測定、またCD4陽性IL-6受容体陽性細胞の変動についてフローサイトメーターにて確認し、Am80による全身の免疫系への影響について検討を行う。またAm80による神経保護効果についてさらに検討するため、免疫組織染色の手法を用いて MBPに加えて、Neurofilament (NE)の発現について検討する。視神経内へのマイクログリアの浸潤の程度を評価するためにIba-I抗体を用いて評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) Am80の全身投与(視神経炎発症期)によるEAO抑制効果の検討 マウス実験的自己免疫性視神経炎の抑制効果を検討するため、MOGペプチドをマウスに免疫、免疫後9日目から隔日投与で合成レチノイドAm80(3mg/kg)、対照群にはPBSを口腔内投与、免疫後25 日目にマウスを屠殺し、眼球と視神経を摘出、視神経炎の発症を病理組織学的に検討し、炎症細胞の浸潤の程度で重症度をスコアする。 2) Am80の全身投与(視神経炎誘導期)による炎症抑制機序、視神経保護効果の検討 MOGペプチドをマウスに免疫、同日からAm80を隔日で投与する。対照群にはPBSを口腔内投与、免疫後14日目に所属リンパ節を採取、MOG peptideを用いて培養し、上精中のIFN-g、IL-17の産生量についてELISA法を用いて検討する。さらにリンパ節細胞中のCD4陽性IL-6受容体(CD126)陽性細胞の変動について検討するためにフローサイトメーターを用いて検討する。さらにAm80による視神経保護効果について検討するために免疫組織染色の手法を用いて MBP、NEの発現について検討する。さらに視神経内へのマイクログリア細胞の浸潤の程度を評価するためにIba-I抗体を用いて評価を行う。 また我々はマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析にてAm80投与マウスの視神経においてラジカルスカベンジャーの一種であるsuperoxide dismutase 1 (SOD1)の発現が対照群と比較して約5倍上昇していることを確認している。平成25年度はこの結果について定量PCR、免疫組織染色法を用いてさらに確認する予定である。
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