研究課題/領域番号 |
23592616
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉田 哲 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (00365438)
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研究分担者 |
小澤 洋子 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (90265885)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 再生医療 / 網膜 / iPS細胞 |
研究概要 |
網膜色素変性症は失明にいたる可能性がある眼科疾患であり、世界中で様々な研究されているものの根本的な治療法の開発には至っていない。そこで、申請者はiPS細胞を用いた再生医療による網膜色素変性症の根本的な治療法の確立を試みる。しかし、単純に網膜色素変性症患者にiPS細胞由来視細胞を移植しても、遺伝的原因により移植細胞が再び変性してしまう可能性が考えられる。よって申請者は、まずiPS細胞に存在する病原性の変異を遺伝子治療した後に、移植治療を行う方法を検討した。 申請者のグループでは、ロドプシン遺伝子座に点突然変異をもつ網膜色素変性症患者の皮膚細胞からiPS細胞を樹立していたので、この点突然変異の遺伝子治療を行った。遺伝子治療は変異をもたないロドプシン遺伝子をiPS細胞の変異ロドプシン遺伝子座にノックインすることにより行った。 遺伝子治療を行ったiPS細胞は、効率よく視細胞に分化誘導することができた。しかし遺伝子治療を行ったiP細胞および行っていないiPS細胞から分化誘導し視細胞を、網膜変性疾患モデルマウスであるCrx遺伝子欠損マウスに移植した後、網膜電位を測定したが、両者とも機能の回復は認められなかった。 医療現場において、網膜の視機能をアッセイする目的で網膜電位はしばしば用いられているが、移植治療をした後にもこの技術が応用できるという報告はなされていない。現在、電気生理学的解析など、移植治療の後の視機能回復をアッセイすることができる別の方法を探索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝子治療および細胞移植については予定通り遂行できたが、その後、視機能の回復を確認することができなかった。この結果の原因として、移植の手技が悪く細胞が網膜下に移植されていない可能性、移植する細胞が悪いため移植細胞が定着しない可能性、アッセイ系が悪く視機能回復をアッセイできていない可能性などが考えられる。 移植の手技については、移植した直後に眼球を摘出し、切片を作成することにより移植細胞が網膜下に入っていることを確認した。移植細胞の品質の問題については、まずiPS細胞から視細胞への分化誘導効率が悪い可能性が考えられるが、細胞を視細胞に発現する遺伝子であるCrxに対する抗体を用いて免疫染色した結果、50%近い細胞が視細胞に分化していることがわかった。しかし、移植する視細胞の分化状態が未熟であると移植しても定着しないという報告がある(MacLaren et al., 2006)。現在、分化誘導を開始してから移植するまでの時間を検討することにより、細胞が移植に適した成熟度にいつ達するかを調べている。最後にアッセイ系の問題については、網膜電位を用いた視機能アッセイの代わりに、網膜に定着している移植細胞の活動電位を電気生理学的に解析することにより機能しているかどうかを調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
iPS細胞から分化誘導した視細胞を、まず野生型マウスの網膜下に移植し定着する条件の検討を行う。まず、iPS細胞由来視細胞における視細胞の分化マーカーであるNrl遺伝子の発現とともに、成熟マーカーであるロドプシンやトランスデューシンの発現を検討する。その後、移植を行うことにより、細胞の成熟度と移植のタイミング、および分化誘導語の日数と移植のタイミングの検討を行う。野生型マウスで移植のタイミングを検討した後、網膜変性疾患モデルであるCrx KOマウスの網膜下に、iPS細胞由来視細胞の移植を行う。視機能回復のアッセイは、網膜電位図や移植網膜を取り出し電気生理学的解析を行うなど、多極的な解析を行う。 これと同時に、網膜変性モデルマーモセットを作成する準備実験を、マウスを用いて行う。視細胞特異的遺伝子Nrlプロモーター調節下でジフテリア毒素を発現するアデノ随伴ウイルスを作成し、マウスの網膜下にインジェクションする。このマウスの網膜について、組織学的解析や視機能の解析を行うことにより、網膜変性動物モデルとして使用できるかどうかの検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
iPS細胞の培養および分化誘導に必要な、ピペットやシャーレなどの消耗品類、培地類、培地に添加する液性因子類が大量に必要となる。さらに、分化したiPS細胞の検出にアデノウイルス、移植細胞をラベルするためにレンチウイルスを用いているが、これらのウイルスを作成するためにも、細胞培養の消耗品や培地類は必要となるため、これが来年度の主な支出になると予想される。 それに加えて、移植に用いるマウスの購入費、網膜変性疾患モデルマウスの維持費も必要である。さらに、来年度はアデノ随伴ウイルスの作成を行うため、PCRに必要な酵素類、DNAの組換えに必要な制限酵素類なども購入する予定である。 本年度、若干の未使用額が発生したが、この未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、来年度の消耗品購入に充てる予定である。
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