研究課題/領域番号 |
23592648
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宇佐美 眞 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (00193855)
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研究分担者 |
寺師 浩人 神戸大学, 医学部附属病院, 准教授 (80217421)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 脂質 / 線維化 |
研究概要 |
<細胞培養の実施>正常線維芽細胞は、Clonetics社より購入したヒト皮膚由来線維芽細胞(CC-2511)を用いて実験し、継代培養可能であった。ケロイド由来線維芽細胞は、神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会に研究内容を申請し、承認された上で、神戸大学医学部附属病院形成外科にて患者よりケロイド組織を採取し、初代培養に成功した。以下の結果は、正常線維芽細胞、ケロイド由来線維芽細胞の両方で得られたものである。<各脂肪酸の線維化マーカー発現抑制効果の確認>Collagen I、 Collagen III、 α-SMA、 TGF-β1のmRNA発現を定量した。短鎖脂肪酸である酪酸およびプロピオン酸、多価不飽和脂肪酸であるDHAおよびEPAの線維化抑制効果が確認された。短鎖脂肪酸では酪酸(1-16 mM)、多価不飽和脂肪酸ではDHA(100 μM)が強い線維化抑制効果を有することが明らかとなった。時間依存性も明らかとなり、添加後48時間で強い抑制効果が得られることが確認された。これらは、他の組織由来の細胞に対する効果と一致しており、想定通りの結果が得られた。さらに、酪酸、DHAの混合添加についても予備的検討にて効果が確認されている。<細胞増殖・障害、Apoptosisに与える影響の確認>64 mM以下の酪酸、100μM 以下のDHAでは細胞障害性を認めないことが確認された。0.01-16 mMの酪酸が細胞増殖を抑制し、特に 1-16 mMで抑制効果が強いことが確認された。さらに、100 μMのDHAと 16 mMの酪酸がapoptosisを促進し、酪酸でより効果が強いことが明らかとなった。<エイコサノイド生成と代謝経路の確認>1-16 mMの酪酸が、線維化抑制作用を有すPGE2の産生を促進し、その作用は、COX-1による影響が強いことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の検討により、短鎖脂肪酸の酪酸 1-16 mM、多価不飽和脂肪酸のDHA 100 μMが強い線維化抑制効果を有することが正常線維芽細胞、ケロイド由来線維芽細胞それぞれで確認された。さらに、これらの適用条件では細胞毒性を有さないこと、apoptosisを促進すること、酪酸が強い細胞増殖抑制を有すことが確認された。さらに、予備検討で、それらの混合添加がさらに強い線維化抑制効果を有することが確認された。これらの結果は、当初の予定通りであった。これらの成果に準じて、第41回日本創傷治癒学会で研究結果を発表し、これらの効果について特許を申請することができた。したがって、初年度の計画として十分な成果が得られたと考えられる。しかし、特に線維化マーカーの抑制効果について、蛋白発現の分析が完了していないため、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の結果より、酪酸、DHAの線維化抑制効果が強いことが確認されたため、これらの混合添加の効果を分析する。酪酸については、1-16 mMの濃度域でDHAは 100 μMで効果が認められたため、(1)添加なし、(2)DHA 100 μM + 酪酸 1 mM、(3)DHA 100 μM + 酪酸 4 mM、(4)DHA 100 μM + 酪酸 16 mMの条件で分析し、最も有効な混合比率を明らかにする。さらに、これらの作用機序を明らかにするために、脂肪酸混合添加がPGE2産生、NF-κB活性、ヒストンアセチル化に対して与える影響を分析し、さらにそれらの変化と線維化マーカーの関連、COXおよびLOX発現とPGE2産生の関連についても解析していく。また、平成23年度の結果と合わせて、これらの成果を世界創傷治癒学会連合会議、ヨーロッパ臨床栄養代謝学会、日本創傷治癒学会等に発表し、Wound Repair and Regeneration誌等へ投稿する予定である。さらに、申請した特許によるケロイド治療薬の製品化に向けて、各種企業に研究成果を開示し、ライセンス化や共同研究の打診を行なっていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は試薬類など、消耗品に研究費を使用し、実験は順調に進めることができた。一方で、学会などでデータを発表する機会が少なかったため、平成24年度は実験に使用する試薬類などの消耗品に加え、積極的に国内外に結果を発表する機会を多く設けることを予定している。また、外国語論文を作成し、海外ジャーナルへの投稿を準備中であるため、外国語論文校正費用を計上する予定である。必要となる試薬類は平成23年度と同様に、プラスチック消耗品類、細胞培養培地、添加物として使用する酪酸およびDHA、分析に使用するリアルタイム関連試薬、ELISAキット、抗体類などを予定している。さらに、機序分析として解析する項目が追加されるため、それらの分析用キットも購入する予定である。
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