研究課題/領域番号 |
23592648
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宇佐美 眞 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (00193855)
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研究分担者 |
寺師 浩人 神戸大学, 医学部附属病院, 教授 (80217421)
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キーワード | 細胞・組織 / 脂質 / 線維化 |
研究概要 |
<線維化促進因子発現抑制効果、apoptosis促進効果の確認> 正常線維芽細胞は、Clonetics社より購入したヒト皮膚由来線維芽細胞(CC-2511)を使用し、ケロイド由来線維芽細胞は、耳垂および前胸部ケロイドより初代培養にて得た。正常線維芽細胞において、酪酸(1-16 mM)とDHA(100 μM)の混合添加が、酪酸およびDHAの単独添加より線維化促進因子であるα-SMA、Collagen I、Collagen III、TGF-β1のmRNAおよびタンパク発現を強く抑制することが明らかになった。同様の結果が前胸部・耳垂ケロイド由来線維芽細胞でも確認された。さらに、病態モデルとしてのIL-1β/TGF-β1刺激下ケロイド線維芽細胞においても、混合添加による強い抑制効果が認められた。細胞増殖性に対する効果については線維化促進因子と同様の抑制効果が認められた。apoptosisについては、IL-1βによる炎症刺激下、および非炎症刺激下において、酪酸・DHAの混合添加により強く促進された。 <エイコサノイド生成と脂質代謝変動の確認> 非炎症刺激下とは異なり、IL-1βによる炎症刺激下では、PGE2産生が著増し、DHAがCOX発現非依存的にその産生を強く抑制した。脂肪酸解析より、DHA添加によって細胞膜組成脂質のDHA含有率の上昇、アラキドン酸含有率の減少が確認され、DHAと酪酸の混合添加ではEPAの含有率が上昇することが見出され、酪酸の脂質代謝変動作用が示唆された。 <ヒストンアセチル化およびPPAR-γ発現変化> western blottingにより、酪酸によるヒストンアセチル化の用量依存性が明らかになり、酪酸によるHDAC inhibitor作用がケロイド線維芽細胞においても確認された。一方、PPAR-γリガンドであるDHAは、PPAR-γ発現を変化させなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度検討が不十分であったタンパク発現レベルでの抑制効果も明らかになった。今年度の目標であった短鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の混合添加の効果については、正常線維芽細胞、ケロイド線維芽細胞においてmRNA、タンパクレベルで明瞭な結果が得られ、さらに次年度の課題である詳細な機序検討についても進められた。成果発表として、第42回日本創傷治癒学会、第66回日本栄養食糧学会、第10回日本機能性食品医用学会、第34回欧州静脈経腸栄養学会議、第4回世界創傷治癒学会連合会議などの国内および国際学会で報告でき、英文論文についても1編投稿を完了している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の重要な研究成果の一つとして、酪酸・DHAのapoptosis促進の検出がある。したがって、酪酸・DHAそれぞれのapoptosis促進経路を明らかにし、相乗効果の機序解明につなげる。さらに、酪酸による長鎖脂肪酸の脂質代謝変動が見出され、酪酸・DHAの混合添加による線維化抑制作用の重要な機序であることが推察される。そのため、脂肪酸解析、ならびに脂質メディエーターの解析も積極的に行なっていく。 平成23、24年度の統合された結果、および今年度得られる新規データを、欧州静脈経腸栄養学会議、日本創傷治癒学会、日本栄養食糧学会、日本機能性食品医用学会等に発表し、Wound Repair and Regeneration誌、Journal of Investigative Dermatology誌等へ投稿する。さらに、申請および公開済みである特許によるケロイド治療薬の製品化に向け て、各種企業に研究成果を開示し、ライセンス化や共同研究の打診を行なっていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は当初予定していた以上の研究成果が得られたため、平成25年度は積極的に学会発表や論文投稿を行なっていく。したがって、旅費、成果投稿料、海外論文校正費用を計上する予定である。 平成25年度はさらにin vitro実験を積み重ね、機序解明を積極的に進めていくため、プラスチック消耗品類、細胞培養培地、添加物として使用する酪酸およびDHA、分析に使用するリアルタイム関連試薬、ELISAキット、抗体類その他各種測定キットの購入を予定している。
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