研究課題/領域番号 |
23592650
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小林 眞司 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員准教授 (90464536)
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研究分担者 |
谷口 英樹 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70292555)
前川 二郎 横浜市立大学, 大学病院, 准教授 (70244449)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 軟骨幹/前駆細胞 / 軟骨再生 / 軟骨膜細胞 / 軟骨膜 |
研究概要 |
頭蓋・顔面領域の組織変形に対して再生医療への期待が高まっているが、長期的な形態保持性などに未解決課題がある。我々は、これら諸問題を解決するために"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"を同定し、軟骨を再生することに成功した。我々の目的は、本細胞の培養技術を基盤として、3次元的なヒト軟骨組織を再構成し医療応用するための細胞操作技術を開発することである。具体的には、(1)"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"の特性解析の推進(2)生体内での再生軟骨の評価(3)3次元形態を有する軟骨の再構築(4)自己血清培養法の開発である。当該年度は、(1)(2)を行った。その結果、"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"は、CD44とCD90を発現し、増殖能、多分化能、自己増複製能を有することが確認された。さらに、生体外で本細胞を軟骨に分化誘導させた結果、軟骨細胞と同様に軟骨産生基質を発現した。また、免疫不全マウスへ移植したところ、"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞" は軟骨細胞と同様に生体内で成熟軟骨細胞へと分化し、その産生基質であるプロテオグリカンなどに富む弾性軟骨組織を再構築した。また、II型コラーゲン陽性弾性軟骨組織の周囲をI型コラーゲン陽性の膜様組織が被覆していることが確認された。一方、腫瘍形成、線維性組織形成、血管侵入や石灰化沈着は全く観察されなかった。移植10ヶ月後の"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"由来軟骨の方がヒト軟骨細胞由来軟骨のよりも乾燥重量が重かった。以上より、"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"は生体内で弾性軟骨組織を長期的に再構築することが示唆された(Proc Natl Acad Sci USA,108,2011)。"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"は従来からの諸問題を解決することができる可能性を持ったシーズであり、かつ臨床現場に直結する医療技術が比較的速やかに開発されることが期待され、これこそが本研究の大きな優位性である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の目的は、本細胞の分離・培養技術を基盤として、3次元的なヒト軟骨組織を再構成し医療応用するための細胞操作技術を開発することである。具体的には、(1)"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"の特性解析の推進(2)生体内での再生軟骨の評価(3)3次元形態を有する軟骨の再構築(4)自己血清培養法の開発である。当該年度は、(1)(2)を行い、ほぼ予定どおりの成果を挙げることができた。"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"は、CD44とCD90を発現し、増殖能、多分化能、自己増複製能を有することが確認され、生体外で軟骨細胞と同様に軟骨産生基質を発現した。生体内では、"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞" は軟骨細胞と同様に成熟軟骨細胞へと分化し、その産生基質であるプロテオグリカンや弾性線維に富む弾性軟骨組織を再構築しただけでなく、II型コラーゲン陽性弾性軟骨組織の周囲をI型コラーゲン陽性の膜様組織が被覆していることが確認された。 "ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"由来軟骨の方がヒト軟骨細胞由来軟骨よりも乾燥重量が重いことが確認され、"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"は生体内で弾性軟骨組織を長期的に再構築することが示唆された。臨床的従来法からこの結果を含めた成果は、3論文 (Proc Natl Acad Sci USA,108,2011, PLoS ONE 6,2011, J Craniofac Surg. 22,2011) に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、本研究において(1)"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"の特性解析の推進(2)生体内での再生軟骨の評価(3)3次元形態を有する軟骨の再構築(4)自己血清培養法の開発を予定している。すでに、(1)および(2)を達成した。今後の予定は、(3)および(4)であるが、次年度(平成24年度)は、(3)3次元形態を有する軟骨の再構築を行う。具体的には、生体内における足場材料を用いた"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"由来軟骨の再構築および評価である。"足場材料を用いることにより、大型の弾性軟骨組織を長期的に再構築することができれば、臨床適応は広範囲に及ぶものと推測される。"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"を生体外で培養し、足場材料であるのハイドロキシアパタイト粒子を複合化した新規スキャフォールド(pCol-HAp/ChS)や高分子重合体であるPLGAに播種し、NOD/SCIDマウスの背部皮下に移植を行い、長期的に形態維持性に優れているかどうかを検討する。また、各々の軟骨を構成するコラーゲン、プロテオグリカンおよびエラスチンの定量を行い、組織学的に比較検討を行う。 次年度以降は(平成25年度)、(4)自己血清培養法の開発を行う。具体的には、"ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"について、10%、2%、1%自己血清含有培地をウシ血清含有培地と比較し細胞増殖能および軟骨細胞への分化能について解析する。細胞増殖能は、コロニーアッセイ法にて各細胞を比較検討し、弾性軟骨への分化を確認するために、半定量および定量RT-PCRを用いて2型コラーゲンとプロテオグリカン、エラスチンの各種遺伝子発現を確認するとともに、組織学的検討を行う。さらに、各細胞をNOD/SCIDマウスの生体内に移植し、半定量・定量PCRおよび組織学的に評価し、臨床応用の可否を判断する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、(3)3次元形態を有する軟骨の再構築を行う。具体的には、生体内における足場材料を用いた "ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"由来軟骨の3次元形態を有する再構築および評価である。 "ヒト弾性軟骨幹/前駆細胞"を生体外で培養するために培養用培地(DMEM/F12)を使用し、軟骨への分化誘導の際にb-FGF,IGF-1などの各種成長因子を使用する予定である。足場材料には、ハイドロキシアパタイト粒子を複合化した新規スキャフォールド(pCol-HAp/ChS)と高分子重合体であるPLGAを用いる。新規スキャフォールド(pCol-HAp/ChS)は提供を受ける予定であるが、高分子重合体は、直径15mmのものを20個程度、購入予定である。 さらに、NOD/SCIDマウスの背部皮下に移植を行い、長期的に形態維持性に優れているかどうかを検討する。NOD/SCIDマウスは10匹×10回を予定している軟骨を構成するコラーゲン、プロテオグリカンおよびエラスチンの定量を行い、組織学的に比較検討のために、RT-PCR用プライマー、免疫組織学的染色用一次抗体(1,2型コラーゲン、プロテオグリカン等)を使用する予定である。
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