本研究では、理由を問わず顔面神経麻痺に陥り、回復の見込まれない状態となった陳旧性顔面神経麻痺に対する治療方法として、健側の顔面表情筋の収縮を筋電で感知し、電気刺激により患側の相対応する表情筋の収縮を促す埋め込み型FESデバイスの開発を進めた。すでに、共同研究者である村岡の協力を得て、実際に埋め込みが可能な程度にまで小型化したデバイスの原理的な骨子は完成しているため、本研究年度は長期間の埋め込み状態で作動を確保するための、電源供給方法の原理的開発に取り組んだ。現在採用を考えている筋体刺激方法、条件、電池では数日に1回程度の充電が必要となる算出となったため、体外からの非接触充電方法についての原理的な確立を進めた。特に本研究では皮膚を挟んだ状態で誘導子間に電磁誘導を惹起することになるために、挟まれた皮膚に熱が発生し、熱傷をきたす可能性などが危惧されるため、これを回避するために最適な方法を動物実験を中心に進めたが、実用上有効な条件を達成することは困難であった。 また、一方顔面神経麻痺患者においては、電気刺激を行うことを試みても、筋肉自体が委縮に陥っていて、可逆的に顔面表情筋運動を再現することができないことが予測される。顔面に欠損している筋肉を移植する方法として遊離筋肉移植術が行われるが、われわれが臨床的に行っている遊離広背筋移植術におけるあたらしい治療選択肢として、移植する広背筋の遠位側の神経断端を吻合することによる筋肉再支配の実現可能性を動物モデルを用いた実験系において確認し、これを論文報告した。さらに臨床症例においても同術式の有効性を確認した。
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