無細胞真皮マトリックス:Acellular Dermal Matrix:ADM)の主成分であるI型コラーゲンは生体における普遍的な結合組織線維である事から、ADMによる皮膚真皮を含めたさまざまな結合組織を誘導しうる移植材料としてその効果が期待されている。しかしADMには移植後の変性や組織吸収が避けられない。ADMの移植後の組織吸収を抑制しより安定した移植特性を得る方法としては、幹細胞の組み込み、ADM(コラーゲン分子)の架橋、他の細胞外マトリックス成分の付加などが考えられる。平成25年度、研究者はADMへの脂肪組織由来幹細胞の組み込みおよびADMの架橋処理が、ADMの移植後の安定性を向上させるかどうかにつき、ラットのアキレス腱欠損モデル、ラットの皮下移植モデル、ラットの腹膜再生モデルを用いて検討した。【方法】Fischerラットの背部分層皮膚をTrypsin処理にて無細胞化しADMを作製した。Fischerラットの鼠径部Fat padからcollagenase 処理によって幹細胞を分離・培養し、第3系代の細胞をADMに組み込んだ。ADMの架橋は低濃度glutaraldehyde処理により行った。幹細胞を組み込 だADMと架橋処理ADMをそれぞれFischerラットのアキレス腱切除部、背部皮下、腹膜欠損部に移植した。【結果】移植4週後、腱再生・皮下組織再生共に幹細胞組み込みADMが最も優れており、架橋処理ADMがそれにつぎ、未処理ADMは炎症あるいは変性吸収が認められた。腹膜再生では幹細胞の効果、架橋処理の優位性は認められなかった。【結論・意義】以上の結果からADMに対する幹細胞の組み込みや架橋処理が、移植後の安定性向上に貢献する可能性が示唆された。本研究結果は、同種無細胞化真皮マトリックスを用いた種々の結合組織再生の臨床応用の可能性を示す意義を有するものと考えられる。
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