研究概要 |
SortilinはproNGFと共にp75に結合すると、細胞死シグナルが細胞内へ伝達される。糖尿病の創傷治癒遷延に表皮細胞のsortilinが関与しているかを調べるため、培地中の糖濃度によって培養表皮細胞のsortilin遺伝子(SORT1) 発現が変化するかを検討した。 実験方法は、無血清、無糖培地で24時間培養した表皮細胞を、0, 20, 40, 60, 100, 200, 400, 800 mg/dLの各種糖濃度に調整した培地でさらに24, 48, 72時間培養した。各培養期間、糖濃度におけるreactive mRNA levels (SORT1/GAPDH)を、対応する培養期間の糖濃度100mg/dLにおけるreactive mRNA levels (SORT1/GAPDH)と比較した。 実験結果は、新たな培地での24時間の培養では、いずれの糖濃度においてもSORT1の遺伝子発現量は100mg/dLのSORT1の遺伝子発現量と有意差はなかった。培養後48時間では0mg/dLのSORT1の遺伝子発現量は100mg/dLのSORT1の遺伝子発現量に比べ有意に高かった(p=0.002)。培養後72時間では0mg/dLのSORT1の遺伝子発現量は100mg/dLのSORT1の遺伝子発現量に比べ有意に高かった(p<0.001)。 表皮細胞を高ブドウ糖培地で培養すると、細胞の増殖と分化、さらにcell mobilityが抑性されるため、培地中の糖濃度が高くなるとSORT1の発現が増加するのではないかと考えられたが、結果は予想に反して、高ブドウ糖においても100mg/dLにおけるSORT1発現と比べて有意な変化はなかった。一方、低血糖を含め低栄養は創傷治癒に悪影響を与えるが、0mg/dL 以外の低ブドウ糖においてもSORT1の発現は100mg/dL のSORT1と有意差がなかった。すなわち生命活動を維持できるレベルの糖濃度であれば高ブドウ糖 と同様に低ブドウ糖においても表皮細胞のSORT1発現は臨床において問題はないことが示唆された。
|