研究課題
申請者らは、敗血症で大きな役割を果たす肥満細胞、好中球、マクロファージ上で発現する、新規受容体であるMAIR-I(CD300a)を同定した。そしてMAIR-Iが肥満細胞の活性化を制御することで敗血症の生存率に関与していること、及びアポトーシス細胞と結合することを明らかにしてきた。よって本研究ではMAIR-Iを介して敗血症においてアポトーシス細胞が果たす役割を明らかにし、MAIR-Iを治療標的へと展開するための研究基盤を確立するために、アポトーシス細胞上に発現するMAIR-Iリガンドの同定とその機能解析を行うこととした。申請者らはアポトーシス細胞とMAIR-Iの結合が、アポトーシス細胞に発現してくるフォスファチジルセリンを介していることを見出した。更に、MAIR-Iがフォスファチジルセリンと結合することで抑制性のシグナルを細胞内に伝達することを明らかにし、論文として報告した。フォスファチジルセリンは貪食細胞にアポトーシス細胞が貪食されるためのeat-me signalとして知られているが、肥満細胞上のレセプターであるMAIR-Iはこのアポトーシス細胞と結合して、貪食ではなく、サイトカインやケモカインの産生を制御していることを明らかにした。敗血症において好中球を呼び寄せる、という重要な役割を果たす肥満細胞上で、MAIR-Iがフォスファチジルセリンを認識することでサイトカインやケモカインの産生を制御し、敗血症の生存率に寄与していることを明らかにし、これらのことをまとめて論文として発表した。この研究ではMAIR-Iが敗血症において治療標的となり得るだけでなく、炎症において増加してくるアポトーシス細胞上のフォスファチジルセリンを認識することが明らかとなったことより、他の疾患においても治療標的となりうる可能性を示唆した。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではMAIR-Iを介して敗血症においてアポトーシス細胞が果たす役割を明らかにし、MAIR-Iを治療標的へと展開するための研究基盤を確立する事を目的としている。そのために、(1)アポトーシス細胞上に発現するMAIR-Iリガンドの同定、(2)同定したリガンドの機能解析、を本研究期間中に行うこととしていた。申請者らはアポトーシス細胞とMAIR-Iの結合がMFG-E8(Milk fat globle-EGF-factor 8)という、フォスファチジルセリンとインテグリンを橋渡しするタンパク質で阻害されること、膜上及びプラスチックプレート上でフォスファチジルセリンとMAIR-Iが直接結合することを見出した。つまり、MAIR-Iのリガンドがアポトーシス細胞上のフォスファチジルセリンであることを明らかにしたことにより、上記(1)は達成できたと考える。また、MAIR-Iがフォスファチジルセリンと結合して、抑制性のシグナルを細胞内に伝達することを明らかにした。同時に、敗血症において重要な役割を果たす肥満細胞上で、MAIR-Iはアポトーシス細胞上のフォスファチジルセリンと結合して、サイトカインやケモカインの産生を制御していることを明らかにし、このことが敗血症の生存率に寄与していることまで示すことができたことにより、上記(2)は部分的に達成できたと考えられ、これまでのところ、おおむね順調に進展していると考えている。
本研究計画においては、MAIR-Iを介して敗血症においてアポトーシス細胞が果たす役割を明らかにし、MAIR-Iを治療標的へと展開するための研究基盤を確立する事を目的としている。そのために、(1)アポトーシス細胞上に発現するMAIR-Iリガンドの同定、(2)同定したリガンドの機能解析、を本研究期間中に行うこととしていたが、MAIR-Iリガンドの同定は計画通り行うことが出来た。一方、同定したリガンドの機能解析としては、敗血症において肥満細胞上のMAIR-Iがアポトーシス細胞と結合して、サイトカインやケモカインの産生を制御していることを明らかにし、このことが敗血症の生存率に寄与していることを明らかに出来たものの、敗血症においてどのような細胞がアポトーシスに陥っているのか、また、フォスファチジルセリンを発現してくるようになるのか等、MAIR-Iのリガンドとしてのフォスファチジルセリンの機能解析についてはまだ課題がある。今後は敗血症を含めた疾患時のMAIR-Iリガンドとしてのフォスファチジルセリンの発現分布に焦点を当て、同時に敗血症以外の疾患についてもアポトーシス細胞、特にフォスファチジルセリンの発現とMAIR-Iの関与を明らかにしていき、MAIR-Iを治療標的へと展開するための研究基盤の確立を目指す所存である。
該当なし
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