本研究課題では、組織損傷にともなって細胞外へ漏出し、近傍あるいは遠隔の細胞に影響を与える細胞内タンパク質を“細胞表面結合タンパク質”として選択的に同定し、その動態を解析するとともに、組織損傷・修復への関与を明らかにする。 H25年度は、これまでに同定し、絞り込んだ機能分子候補について、U937細胞に対する機能影響解析を行った。まず各機能分子候補のcDNAをPCRにて増幅し、FLAGタグ発現ベクターへクローニング後、293細胞、あるいは293T細胞へトランスフェクションした。ウエスタンブロッティングにより発現タンパク質の分子量と発現量を確認し、24~48時間後の細胞から組換えタンパク質を得た。一部の機能分子候補については市販の精製タンパク質も入手し、細胞影響解析に使用した。リポポリサッカライド(LPS)にて刺激したU937細胞について、機能分子候補を培地中へ添加し、MAPキナーゼ(Erk1/2)のリン酸化に対する影響をウエスタンブロッティングにより解析した。LPS刺激後60分のU937細胞においては、Erk1/2のリン酸化は2倍に上昇し、特定の機能分子候補(protein X1)が共存した場合にのみ、リン酸化の程度はさらに増強された。protein X1によるErk1/2リン酸化の増強効果はLPS無刺激時にも観察されたことから、protein X1がU937細胞の細胞内シグナル伝達に直接作用していることが明らかになった。すなわち、損傷組織から漏出したprotein X1は、近傍の単球表面に結合し、その細胞機能(炎症反応など)を積極的に制御している可能性がある。 H23、H24年度の結果を踏まえ、「細胞表面結合能を有する細胞内タンパク質には、組織損傷時に細胞外へ漏出し、新たな機能を発現する分子が含まれる」と結論付けた。
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