研究課題
本年度は、HLAハプロタイプホモの歯髄細胞2ライン(DP74, DP94)から、DNAVEC社および産業総合研究所(産総研)のセンダイウイルスベクターを用いて、iPS細胞誘導をおこなった。センダイウイルスタンパク質に対する抗体を用いて、感染効率を比較したところ、山中4因子が別々のベクターに挿入されたDNAVEC社のベクターの方が、4因子を一つのベクターにまとめた産総研ベクターよりも、感染効率は高い傾向が見られた(ほぼ100%)。実際のiPS細胞様コロニーの誘導効率は、0.2%前後であり、どちらのベクターも同様の効率を示した。レトロウイルスベクターと比較しても、ほぼ同等の効率であった。iPS細胞様クローンからのベクター除去に関しては、多能性幹細胞で発現するmiRNAの標的配列を有する産総研ベクターが優れていたが、DNAVEC社ベクターも、温度感受性を利用した除去をおこなわずとも、多くのクローンで自然除去が起きていたことから、実用上は問題ないと思われる。樹立されたiPS細胞ラインについては、未分化マーカーの発現と免疫不全マウスでの奇形腫の形成により、多能性を確認できた。因子数の削減については、DNAVEC社の房木先生が既に改良ベクターによる検討をおこなっているとの情報が得られたため、本年度の主要な検討事項からはずした。無血清培地についての検討もおこない、Lonza社の間葉系幹細胞用培地「MSCGM-CD」のみが、ヒト歯髄細胞の増殖をサポートできる事が分かった。しかし、この培地を用いた増殖しない細胞も多く、更なる改良を加えながら、引き続き血清入りの培地でも細胞を単離する必要があるだろう。
2: おおむね順調に進展している
HLAハプロタイプホモ歯髄細胞2ラインから、センダイウイルスベクターを用いてiPS細胞ラインを樹立できた。DNAVEC、産総研の2種類のベクターは、iPS細胞誘導効率に関してはレトロウイルスベクターに匹敵し、充分な性能を発揮する事が確かめられた。因子数減少に関しては、今回検討からはずしたが、山中教授と五島先生により、新たにGlis1という因子が発見される等、リプログラミング因子については世界の研究動向を見ながら進めて行くべきであると考えている。また、臨床研究に向けた無血清培地の検討も進め、Lonza社との共同研究も視野に入れた研究が、順調に進んでいる。
まず、現在MSCGM-CDで培養した若年者歯髄細胞について、センダイウイルスベクターを用いた山中4因子導入によるiPS細胞誘導が可能かどうかの確認をおこなう。MSCGM-CDではうまく増殖しない成人歯髄細胞についても、低酸素培養によって増殖能とiPS細胞誘導効率が上昇する事が示唆されているため、さらなる検討をおこなう。目標としては、あらゆる年齢層の細胞から、無血清培地のみでiPS細胞誘導を可能にする事である。さらに、現在2種類得られているHLAハプロタイプホモ細胞は、日本人での出現頻度が1位および6位のものであり、2~5位のものを得るために、さらなるHLA解析と、ミスマッチアリル特異的な変異導入による、人為的HLA3ローカスホモ細胞の作製を試みる。ただし、計算上2位以降の細胞は700例以上の細胞のスクリーニングが必要であると考えられるため、人為的にHLA-A, B, DRの3ローカスホモ細胞を作り出す試みを中心に研究を進める。
前年度に前倒しでHLAタイプの委託解析を行ったため、そのデータ解析を行う。日本人におけるハプロタイプ出現頻度から計算すると、700検体の解析をおこなわないと、出現頻度2位のハプロタイプホモ細胞を得る事はできないため、方針を修正する。具体的には2ローカスホモ細胞を使い、ミスマッチアレルを変異させた、疑似3ローカスホモ細胞を作製する計画をスタートさせる。Zinc Finger Nuclease (ZFN)法を用いて、HLA-Aローカスに選択的変異を導入する。ZFNの設計は委託するが、その費用が高額になる事が予想され、山中iPS細胞特別プロジェクトからも予算をやりくりして、計画を進行させる。
すべて 2011
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Nature Methods
巻: 8 ページ: 409-412
10.0.1038/NMETH.1591