TRPS1の変異により起こるTrichorhinophalangeal症候群は骨格、毛髪、顔貌に異常を示す疾患であり、発症する頻度は低いものの著しい低身長や若年での関節炎発症など表現型が重篤な場合がある。また、TRPSの患者は特徴的な鼻部の形態や小顎など頭部の発生異常を示すが、申請者らはその発症メカニズムを解明する目的でTrps1遺伝子欠損マウスの下顎発生過程を詳細に調べた。まずTrps1の遺伝子発現は下顎の近位部に顎関節発生初期から発現し続けることを見出し、その遺伝子欠失により関節円板、関節腔、下顎頭が正常に発生しないことを見出した。そこで次にTrps1遺伝子の発現制御機構を知るため、ヒトとマウスの転写開始部位上流領域のゲノム配列を比較したところ相同性の高い領域がいくつか存在することが分かった。申請者らは転写開始部位約4kbのクローニングを行い、この下流にCreリコンビナーゼのcDNAを組み込んだトランスジーンを用いてトランスジェニックマウスを作製した(Trps1-Cre)。Trps1-CreマウスをCreのレポーターマウスと交配することで、この遺伝子断片の個体レベルでの活性を見ることが可能となる。複数のTrps1-Creマウスのラインを確立後、各々のラインをレポーターマウスと交配した。その結果、いずれのラインも活性の強弱はあるものの、関節軟骨、心臓、腎臓、一部の毛包に活性を認めた。残念ながら顎関節には発生を通じていずれのラインでも活性は見られず、顎関節のエンハンサーはこの4kb以外の領域に位置することが考えられた。
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