研究課題/領域番号 |
23592701
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉子 裕二 広島大学, 大学院医歯薬保健学研究院(歯), 教授 (20263709)
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キーワード | FGF23 / KLotho / 石灰化 / Phex / ASARM |
研究概要 |
FGF23は骨細胞から分泌され、血流を介して尿細管上皮に作用し、リン利尿を促進する。FGF23のこの作用には膜タンパクKlothoが不可欠で、尿細管上皮に分布するKlothoはFGF受容体と複合体を形成し、FGF23の結合親和性を高めている。一方、Klothoの少なくとも一部は細胞外ドメインが切断され、血流を循環することが報告された(可溶型Klotho)。このことを受け、可溶型KlothoがFGF23と共同して骨形成を抑止することを明らかにした。これまで、FGF23-可溶型Klothoの作用を様々な角度から検証してきたが、今回、骨細胞においてFGF23-可溶型Klothoによって制御される下流の標的分子を探索し、以下の結果を得た。(1)FGF23ならびにFGF2を過剰発現した培養骨細胞において、発現変動する遺伝子を網羅的に解析した。FGF2では骨芽細胞の増殖・分化に関連する多数の遺伝子が変動したのに対し、FGF23では52の遺伝子に限られた。このうち、下方制御される遺伝子としてX連鎖性低リン血症性くる病の原因遺伝子Phexが含まれていた。(2)Phexで切断されると推定されている石灰化抑制ペプチドASARMの抗体(ポリクローナル)を作製した。(3)同抗体は、複数の培養細胞による石灰化モデルにおいて、ASARMの石灰化抑制効果を阻害した。(4) 同抗体により、ASARMは大部分の骨細胞、一部の骨芽細胞に検出された。(5)マウスの血中にASARMの存在することが示唆された。(6)Klotho欠損マウスの骨では、ASARMの蓄積が著明であった。 以上の結果より、骨細胞/骨芽細胞におけるFGF23-可溶型KlothoとASARMの関係およびASARMによる石灰化制御の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の期間内の目標として、(1) FGF23-可溶型Klothoによる石灰化調節作用のメカニズム、(2)FGF23発現調節機構、(3)FGF23依存性のMAPK・ERKの調節機構が設定されている。それぞれの達成度を以下に示す。 (1)骨細胞におけるFGF23-可溶型Klothoの下流の標的分子として、X連鎖性低リン血症性くる病の原因遺伝子Phexが同定された。Phexはリン利尿の促進や、骨・象牙質の石灰化を抑制する未同定の基質を分解する酵素と考えられており、石灰化の鍵となる分子である。この分子の基質として、骨基質タンパクSBLINGファミリーの文化遺産物ASARMペプチドが特定された。(2)ラットFgf23のプロモーター領域におけるビタミンD応答領域(VDRE)を特定し、活性型ビタミンD3の作用を明らかにした。Fgf23の発現調節因子として、副甲状腺ホルモン(PTH)、細胞外リンの関与も示唆されたが、このうちPTHは、活性型ビタミンD3存在の有無により異なる作用を示すことが明らかとなった。PTHはビタミンD3-ビタミンD受容体とVDREの結合に関与せず、FGF23によるERKの活性化に関与することが推察され、FGF23の転写調節の少なくとも一部が解明された。(3)ERKの活性化には一過性と持続性の2つのパターンがあり、FGF23は前者、FGF2は後者に該当した。後者は石灰化の抑制の他、増殖促進、分化促進等の形質発現に関わるが、前者には細胞増殖・分化への効果は見られない。FGF23による一過性のERKの活性化は骨関連因子の遺伝子を変動させない特徴を示した。このことがFGF23の特異性の要因と推測され、現在ERKのシグナルパターンを変動させるモデルを作製中である。以上より、本課題は概ね順調に経過していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本課題のこれまでの結果として、FGF23-可溶型Klothoシグナルの下流に位置すると考えられるPhexあるいはその基質としてASARMの骨ならびにリン酸代謝における役割が推測されるに至った。ASARMは様々なSIBLINGタンパクに共通するAsp、Serの豊富なモチーフであるが、個々のSIBLINGタンパクに由来するASARM間の相同性はむしろ低い。本課題では、複数のASARMのうち、MEPE (matrix extracellular phosphoglycoprotein)由来のものに強い石灰化抑制作用を認めた。さらに、MEPE-ASARMに対するポリクローナル抗体作製したところ、弱いながら中和活性を示したことより、今後はASARMあるいはその抗体の動物レベルにおける生物活性を確認することとする。とくに、カルシウム・リン酸代謝、骨ならびに関連器官に対するASARMの影響を正常マウスと疾患モデルマウスを用いて検討する。あわせて、抗体によるASARMの定量方法を確定し、ASARMの疾患との関連などをモデルマウス、培養細胞を用いて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
以下に主な使用計画を示す。 (1)培養関連:組換えタンパクの作製、同タンパクの過剰発現モデルの作製等 (2)ASARMの活性部位の特定:合成ペプチドの作製、培養試薬 (3)動物実験:ASARペプチドの骨、リン代謝等に対する影響 (4)関連学会での発表
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