研究課題/領域番号 |
23592715
|
研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
才木 桂太郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (30297973)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | タンパク質分泌 / 慢性歯周炎 |
研究概要 |
慢性歯周炎原因菌Porphyromonas gingivalisで見出された新規のタンパク質分泌系PorSSは、本菌の病原性や増殖に必須なタンパク質因子を分泌する。PorSSは機能や構造が詳細に解明されていない。今年度はPorSSの外膜チャネルの候補として同定された新規の巨大外膜タンパク質Sov(2,499残基)の機能的役割を検証した。(1)Sovタンパク質の精製:Sovは発現量が非常に少なく、遺伝子カセットの挿入による極性効果でもその発現量は有意に上昇しなかった。またヒスチジン・タグを導入したSovタンパク質(SovHis)は、界面活性剤を用いた条件下で精製出来なかった。現在、SovHisの精製条件の検証を行っている。(2)最少培地の組成の検証:P. gingivalisは、ブレイン・ハート・インフュージョン複合培地を基礎とするBHIHM培地ではSov等に非依存的に増殖するが、タンパク質を唯一のエネルギー源として含有する最少培地ではその増殖がSov等に依存する。P. gingivalisの最少培地に添加するタンパク質源として、液体培地ではウシIgG+BSA の混合(GA培地)が、寒天平板ではウシIgG+BSA の混合またはラクトアルブミンかカゼインの単体での添加が本菌の増殖を良く支持した。しかし、ラクトアルブミンとカゼインは白濁水溶液となることから液体培地での使用は制限されることを示した。(3)PorSSの分泌阻害物質の探索:東京大学創薬オープンイノベーションセンターが保有する化合物ライブラリー(計約14万個)から、P. gingivalisのGA培地での増殖を阻害するがBHIHM培地での増殖を阻害しない化合物のスクリーニングを開始した(本年度は約1万個をスクリーニングした)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Sovタンパク質の精製標品を用いて種々の生化学的実験を行う予定であったが、Sovタンパク質の精製が未だ成功していない。原因として、(1)P. gingivalisのSovタンパク質は、抗血清を用いたイムノブロット法でも濃縮したサンプルを用いて漸く検出できるほどその発現量が低い。P. gingivalisでのSovタンパク質の過剰発現も困難であった。(2)外膜タンパク質であるSovの精製には、タンパク質の可溶化が必要であるが、可溶化剤を用いた条件ではSovHisタンパク質の回収率が非常に悪く、SovHisが精製できてない。膜タンパク質の精製には特殊な条件が要求される場合があることから、SovHisの精製条件を詳細に検証する必要がある。(3)タンパク質架橋剤DSPを用いてSovHisタンパク質と架橋したタンパク質を同定する実験を行った。架橋反応後のSovHisは変性条件下で精製できるため、変性条件下でのSovHisの精製条件を決定した。しかし、タンパク質架橋剤を反応させるとSovHisタンパク質の回収率自体が悪くなり、未だ架橋産物の同定には至ってない。(4)Sovの機能を消失するC末端欠失変異体を発現するP. gingivalis株から、最少培地で増殖可能となるサプレッサー変異体を分取し、いくつかのサプレッサー変異を決定した。そこで同定したサプレッサー変異を単独で導入する系の構築を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
P. gingivalisからSovHisタンパク質を精製することが困難である可能性がある。そこで平成24年度は、P. gingivalisからのSovHisタンパク質の精製実験に加えて以下の実験も並行して行う。(1)大腸菌で大量発現させて精製した組換えSovタンパク質を用いて同様の生化学的実験を行う。(2)Sovの変異体を発現するP. gingivalis株を新たに構築して、最少培地で増殖可能となるサプレッサー変異体を分取する。サプレッサー変異情報からSovタンパク質内あるいは複合体間の相互作用情報を遺伝学的に解析する。(3)PG27は、Sovと同様にPorSSに必須な外膜タンパク質として申請者が初めて同定した。そこでPG27タンパク質の解析を、Sovタンパク質と同様の手法で行う。(4)Sovタンパク質の分泌を阻害する化合物をスクリーニングし、その阻害機構の解析からPorSSあるいは外膜チャネルの構造や機能を推定する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度で計上していた研究経費の内、精製したSovタンパク質と結合しているタンパク質の質量分析法に計上していた額の助成金を平成24年度に繰り越した。平成24年度はSovタンパク質と架橋するタンパク質をN末端アミノ酸分析で解析する予定であった。これらの実験に必要な(1)Sovタンパク質の精製法の確立実験を平成24年度も引き続き行うが、(1)が達成できない可能性も考慮する必要がある。そこで平成24年度では(1)と並行して(2)大腸菌から精製した組換えSovタンパク質と結合するタンパク質因子をP. gingivalisの細胞抽出液から分離して同定する、(3)P. gingivalisから精製したPG27タンパク質と複合体を形成しているタンパク質を分離・同定する、実験も行う。以上の実験から得られた結合性タンパク質因子は、LC-MS/MS分析やN末端アミノ酸分析の受託解析を行って決定する。また、平成23年度後半より開始しているPorSSの分泌阻害物質の探索のための化合物ライブラリーの購入費に、研究費の一部を充てる。
|