研究課題/領域番号 |
23592715
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
才木 桂太郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (30297973)
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キーワード | 歯周炎 / タンパク分泌 |
研究概要 |
慢性歯周炎原因菌Porphyromonas gingivalisで見出されたPorSS(Por secretion system)は、C末端領域にC-terminal domain(CTD)を有する病原性や増殖に必須なタンパク質を細胞外に分泌する。PG27タンパク質はCTDタンパクの分泌に必須な外膜タンパク質として申請者が同定・報告した。その後PG27は分泌されたCTDタンパクに付加される陰性リポ多糖の生合成に関与することが報告され、PG27がPorSSの構成因子ではないことが示唆された。しかし申請者はPG27の欠損がCTDタンパクの分泌過程を阻害することを示していた。そこでPG27タンパクをP. gingivalisから精製し、その結合性タンパク質を検証することで、PG27とPorSSとの機能・構造的な関連性を調べた。 (1)昨年度はPG27タンパクの結合性タンパク質を見出し、PG0026タンパクを同定した。今年度は、より高分子量のPG27結合性のタンパク質があることを見出し、HagAタンパクを同定した。更にPG27・PG0026複合体とPG27・HagA複合体を生化学的、遺伝学的解析によって確認した。PG0026はCTDタンパク質のCTD部分を切断する新規のシグナルペプチダーゼである。そこでPG27・PG0026複合体はPG0026を外膜に固定する役割を担っていると結論した。またPG27の欠損がPG0026の局在に影響することでCTDタンパク質の分泌活性そのものを阻害したと推定した。 (2)昨年度から引き続き、東京大学創薬オープンイノベーションセンターが保有する化合物ライブラリー(計約14万個)から、P. gingivalisの最少培地と複合培地での増殖性からPorSSの分泌阻害性物質やその他の種々の阻害物質の探索を行っている。本年度は約2万個の化合物をスクリーニングした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SovタンパクはCTDタンパクの分泌に必須な歯周炎原因菌P. gingivalisの新規の外膜タンパクとして申請書が同定・報告した。SovタンパクはPorSSの外膜タンパク質因子であると考えられているが、その詳細はほとんど明らかにされていない。Sovの機能的役割をPG27と同様の手法で検証するために、Sovタンパクの精製系の構築を行っている。膜タンパクであるSovの精製は想定される通り簡単ではなかったが、今年度はSovタンパクの精製系の構築に向けて決定すべき条件を絞り込むことができた。 PG27タンパクの精製は、PG27タンパクにヒスチジンタグを導入してニッケルカラムに結合させる方法で行った。通常ヒスチジンタグはヒスチジン残基が6個のペプチドを用いるが、PG27の場合はこの条件ではニッケルカラムへの結合が弱くPG27を精製できなかった。しかしヒスチジン残基を12個に増やしたタグを導入することでPG27の精製が可能になることを見出した。SovタンパクもPG27タンパクと同様にヒスチジンが6残基のペプチドタグの導入ではニッケルカラムへの結合が弱く精製ができなかったが、ヒスチジン12残基のタグを導入したSov(Sov-His)はニッケルカラムへの結合性が改善されることを見出した。しかしSov-Hisは野生型Sovに比べてその発現量が著しく低下しており、解析に必要な量を回収することが困難であった。従ってSovタンパクの精製系の構築において、Sov-Hisの発現量や安定性を向上させる条件の決定が重要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)歯周炎原因菌P. gingivalisで発現させたヒスチジン12残基のタグを導入したSovタンパクの安定性を向上させる条件を決定し、精製したSov複合体からSovタンパク結合性のタンパク因子を同定し、PorSSの構造を検証する。 申請者はSovタンパクのC末端5残基以上の欠失はSovの機能を消失させることを報告したが、その機能消失の原因は明らかにされていない。更に申請者はH25年度までに、SovのC末端領域の1残基の置換で機能を消失する変異体も構築している。そこでこれらの変異によるSovタンパクの機能消失とSovタンパクの安定性低下による分解との関連性を検証する。Sovタンパクの安定化に影響を及ぼす条件の決定は、Sovタンパクの精製系の構築に重要な情報を提供することが期待される。 (2)PG27・PG0026複合体によるCTDタンパクのCTDの切断活性を検証する。 PG0026はCTDタンパク質のCTD部分を切断する新規のシグナルペプチダーゼであることが報告されているが、試験管内におけるPG0026のCTD切断活性は未だ確認されていない。これはPG0026の精製が報告されていないことに起因すると考えられる。従って本研究において達成されたPG27・PG0026複合体の精製は、PG0026の精製として世界で初めての報告となった。そこでPG0026に基質タンパクとしてCTDを導入した緑色蛍光組換えタンパクを構築・精製し、PG27・PG0026複合体による切断を緑色蛍光や分子量や質量分析法によって同定する。 (3)Sovタンパク質の分泌阻害性化合物、P. gingivalisの増殖阻害性化合物のスクリーニングを継続して行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用金額が生じたが、1万円未満であること、補助事業期間が残り1年あること、受託解析の数によっては予定以上の経費が想定されることから、繰り越して最終年度に使用することとした。 Sovタンパクの精製実験から得られた結合性タンパク質因子、PG0026タンパクによるCTD導入緑色組換えタンパクの切断部位等を、質量分析(LC-MS/MS等)の受託解析を行って決定する。また、平成23年度後半より開始している阻害物質の探索のための化合物ライブラリーの購入費を研究費の一部に充てる。
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