研究課題/領域番号 |
23592716
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
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研究分担者 |
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (70350139)
島津 徳人 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (10297947)
青葉 孝昭 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (30028807)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 歯学 / 病理学 / 舌発生 / 血管・神経網 / ガイダンス機構 |
研究概要 |
舌の形態形成では、血管網と神経網に支えられた舌筋の組織構築が進行する。舌運動を支配する舌下神経軸索は後頭神経根から各鰓弓を経て舌原基に到達し、舌原基内で分枝して舌筋との機能的接合を果たす。この舌下神経軸索の伸長経路は後頭体節由来の舌筋前駆細胞の移住経路と一致している。本研究では、舌下神経の軸索誘導と神経軸索-舌筋の接合に注目して、マウス胎仔鰓弓における血管網・神経網の3次元観察、顕微試料採取による軸索伸長先端部での遺伝子発現解析、鰓弓器官培養による分子機能解析に基づき、器官形成の基本システムとなる血管・神経伸長の方向性を制御するガイダンス(誘引・反撥)の分子機構と細胞間相互作用を明らかにする。初年度では、マウス舌下神経の軸索誘導に働くガイダンス機構を明らかにする目的で、胎生9日~12日のマウス頭部における血管網と神経網を組織立体構築するとともに、下顎突起でのマイクロアレイ解析を実施した。これらの解析により、以下の結論が得られた。(1) バーチャルスライドを導入した組織立体構築像では、末梢血管網と神経先端を識別できた。また、広領域の画像情報を処理することにより、頭部全域での血管・神経走行と分岐パターンの左右対称性を検証できるとともに、内頸動脈・神経管から鰓弓先端に至る血管・神経走行を辿ることができた。(2) マウス頭部顎顔面領域の発生初期(胎生9.5-11.5日)では、血管新生が神経発達より先行して起こり、神経線維は既存の血管を後追いするように伸長していた。鰓弓への神経誘導には、先行する血管系からのguidance作用が働くと考えられた。(3) マイクロアレイ解析では、下顎突起において、血管ガイダンス因子や動脈・静脈の分化調節因子は胎生9.5日から発現しており、神経形成関連の遺伝子群は胎生11.5日で発現上昇を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては、バーチャルスライドによる高画質デジタル情報を活かした組織立体構築法に基づき、胎生9.5-11.5日のICRマウス胎仔頭部全域に広がる血管網と神経網を復元するとともに、同時期の下顎突起でのマイクロアレイによる遺伝子解析を行い、胎齢にともなう血管網・神経網の形成機序について検討した。まず、マウス胎仔頭部について、試料採取から連続切片の作製、血管と神経のマーカ抗体による二重免疫染色、組織立体構築に至る実験プロトコールを確立した。この実験プロトコールに基づき、胎生9.5-11.5日の各胎齢について背側動脈や鰓弓を栄養する大動脈弓などの主要な血管、舌下神経をはじめとする脳神経を含む血管網と神経網の組織立体観察を行なった。その結果、平面画像ではきわめて困難である主要な血管と脳神経の走行を時空間的に辿ることができた。遺伝子解析については、当初の計画に沿って、神経・血管形成のガイダンス因子と関連分子に着目して、下顎突起でのマイクロアレイ解析(GeneChip®アレイ、Mouse Expression 430 2.0 Array、Affymetrix、USA)を実施し、GeneSpring Version 7.3.1(Silicon Genetics Inc.、USA)を用いて遺伝子リストを作成した。今回の遺伝子発現解析に際して、遺伝子データベースと文献情報を参照して、血管形成と神経形成の牽引と反発に働くガイダンス因子、動脈・静脈の分化制御因子に関わる遺伝子プロファイルを作成し、各胎齢の下顎突起試料における遺伝子発現レベル(Present、Marginal、Absent)を検証するとともに、胎齢の異なる試料間での遺伝子発現変動に基づき、CytoscapeとそのプラグインBiNGOを用いてGene Ontology(GO)解析を実行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、マウス胎仔頭部の血管網と神経網の組織立体構築では、背側動脈や鰓弓を栄養する大動脈弓などの主要な血管と、舌下神経をはじめとする脳神経について、それぞれの走行を時空間的に詳細に観察できるように異なる色調で表示することを試みる。予備検討において、連続画像上でマーキングすることによりそれぞれの血管・神経を異なる色調で表示できることを確かめている。神経軸索先端と周辺に位置する細胞(血管内皮細胞と壁細胞、筋系譜細胞)との相互作用については共焦点観察により検証する。光顕レベルで細胞間接着が示唆された場合には免疫電顕法により確証する。遺伝子発現の解析においては、初年度で実施したマイクロアレイによる解析を継続し、血管形成と神経形成の牽引と反発に働くガイダンス因子、動脈・静脈の分化制御因子に関わる遺伝子プロファイルについて検証するとともに、血管と神経軸索間ガイダンスに関わる分子ネットワークの構築を目指す。また、後頭神経根から外側舌隆起に至る舌下神経軸索の伸長経路において、リアルタイムPCRによりガイダンス因子と受容体、神経―筋接合に働く分子種とマイクロアレイ解析で新たに抽出された分子種の遺伝子発現を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
以上の研究計画を遂行するうえで、次年度では、実験動物として、対象のICR系統の妊娠マウス(5千円×20匹/年)の購入と飼育に要する経費、免疫組織化学には抗体及び関連試薬、遺伝子解析用試薬として、核酸抽出用試薬、リアルタイムPCR用試薬とプライマー、器官培養器具とその関連試薬としては、培地・阻害剤、遺伝子導入用試薬に要する経費、組織画像での形態計測や得られたデジタル画像の保存のためのメディアに要する経費などである。マウス胎仔試料の採取、鰓弓器官培養、組織標本の作製、画像データの撮影・編集・保存に対して、実験補助員への謝金を支払う予定である(1千円/1時間×2時間/1日×150日/年)。
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