研究課題/領域番号 |
23592719
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
山田 浩之 鶴見大学, 歯学部, 講師 (90267542)
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研究分担者 |
斎藤 一郎 鶴見大学, 歯学部, 教授 (60147634)
美島 健二 昭和大学, 歯学部, 教授 (50275343)
濱田 良樹 鶴見大学, 歯学部, 教授 (70247336)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 唾液腺の再生 / 血管再生 / 歯髄細胞 |
研究概要 |
【目的】本研究では難治性の口腔乾燥症患者に対する新規治療法の開発を目的として、血管に分化誘導をかけた歯髄細胞をマウスの顎下腺に局所注入する治療実験を行う。移入された歯髄細胞が傷害を受けた唾液腺の周囲の血管新生を促すことにより、唾液量が増加するか否かを検証する。平成23年度は、血管に分化誘導をかけた歯髄細胞の特性を解明するために歯髄細胞とマウスの血管内皮細胞を比較した。 【方法】生後3週齢、C57BL/6J雄性マウスから臼歯歯髄組織を採取し、αMEMを用いて細胞培養を行った。EBM-2培地にて血管内皮細胞に歯髄細胞の分化誘導を試み、血管内皮細胞関連マーカーの発現についてRT-PCRによって検討した。次に、血管内皮細胞への分化誘導を試みた歯髄細胞をMatrigelでコートしたディッシュ上に播種し、24時間後にtube-like structure形成の有無について確認した。さらに、これらの歯髄細胞をMatrigelに懸濁しBALB/cAJcl-nu/nu雄性マウスの皮下に移入して、tube-like structure形成の有無について検討した。【結果】RT-PCRによる解析では、歯髄細胞は、血管内皮細胞への分化誘導後、血管内皮細胞関連マーカーであるVEGFA, CD31, Flk1, VE-cadherin, および、vWF遺伝子を発現していた。加えて、これらの細胞は、Matrigel上に播種したり、BALB/cAJcl-nu/nu雄性マウスの皮下に移入すると、tube-like structureを形成した。【結論】マウス歯髄細胞には、血管内皮細胞への分化能を有する細胞が含まれていることが示唆された。身体の機能低下の一因が血流の低下による場合、血管内皮細胞への分化能を有する歯髄細胞は微小循環を改善する治療の有効なソースであると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は、GFPマウスから歯髄細胞を採取して培養し、血管への分化誘導を行うとともに、血管内皮細胞との比較により、その特性について研究した。1. GFPマウスから採取した歯髄細胞の培養 (担当:山田、濱田):3週齢のGFPマウス(オス)にエーテル麻酔を行う。メスとピンセットを用いて下顎骨周囲の軟組織を剥離し、下顎臼歯の歯髄を採取する。採取した組織はコラゲナーゼで、37℃で10分間振盪させる。20回ピペッティングし細胞を単一化する。回収した細胞懸濁液を1200rpmで 5分間遠心し、その上清を除去する。沈殿した細胞を培地(αMEM,10%FBS,抗菌薬含有)に懸濁し、12 well のシャーレの2箇所に播種する。2. 血管への分化誘導を行った歯髄細胞の特性の解明(担当:山田、美島):血管への分化誘導を行った培養歯髄細胞の特性を調べるために歯髄細胞とマウスの血管内皮細胞において幹細胞マーカーや血管内皮関連マーカーの発現を比較した。歯髄細胞の血管への分化誘導は、VEGFを添加した血管分化誘導培地にて1週間培養することで行った。その結果、RT-PCRによる解析では、歯髄細胞は、血管内皮細胞への分化誘導後、血管内皮細胞関連マーカーであるVEGFA, CD31, Flk1, VE-cadherin, および、vWF遺伝子を発現していた。加えて、これらの細胞は、Matrigel上に播種したり、BALB/cAJcl-nu/nu雄性マウスの皮下に移入すると、tube-like structureを形成した。 以上の結果より、歯髄細胞は血管内皮細胞へ分化誘導できる可能性が示唆された。さらに、ES細胞、骨髄細胞との比較検討を加える計画であったが、顕微鏡下で行うマウスの歯髄細胞採取は難しく、十分な量を確保することができなかったため、実験の遅れに繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度の項目で前述した通り、歯髄細胞とES細胞、骨髄細胞の比較実験ができなかったため、ES細胞や骨髄細胞の準備費用、実験費用、実験動物費用、人件費等の未使用の費目が生じた。 平成24年度は、前年度に行えなかった上記検討に加えて、作出した放射線照射による唾液分泌障害マウスに対する治療実験を行う。歯髄細胞、マウス血管内皮細胞およびVEGFの局所注入群を設定し、唾液分泌量の経時的変化を観察する。1. 放射線照射による唾液分泌障害マウスの作出 (担当:美島):Specific pathogen-free室にて飼育したC57BL6J(6週齢オス)マウスにpentobarbital (50 mg/kg)を静脈内投与し、リニアック(Toshiba Medical System, Tokyo) を用いて10 MVのX線を15 Gy顎下腺局所に照射する。2. 放射線照射による唾液分泌障害マウスへの細胞移入実験 (担当:山田、濱田、大学院生:山村):放射線照射マウスにpentobarbital (50 mg/kg)を静脈内投与し、顎下部の皮膚をメスで切開する。顎下腺組織を露出させ、唾液腺組織に下記の各群において細胞やVEGFを注入する(放射線照射数時間後)。(1)歯髄細胞の移入群(2)マウス血管内皮細胞の移入群(3)VEGFの局所注入群(4)コントロール(PBSの局所注入)群3. 唾液分泌量の測定 (担当:山田、大学院生:山村):各群における唾液分泌量の経時的変化を観察する。照射1週間前、照射1週間後、2週間後、4週間後、6週間後、8週間後および12週間後に唾液分泌量の測定を行う。唾液はキャピラリー(DURAN)を用いて採取し15分間の総容量を測定し、マウスの体重1g当たりの唾液分泌量を算出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 備品:複数の研究者間で本研究課題の実験データを共有する必要があるため、実験データの管理や統計処理を目的とする専用のパソコンの購入を計画している。2. 消耗品:平成24年度は、前年度に引き続きGFPマウスから歯髄細胞を採取し、培養するためにマウスおよび飼育に必要な飼料を消耗品として申請した。また、培養した歯髄細胞からmRNAを抽出しその特性を調べるため、細胞培養関連の器具や核酸実験に用いる各種の試薬が必要となる。加えて、作出した放射線照射による唾液分泌障害のモデルマウスに対する治療実験を行う。歯髄細胞、マウス血管内皮細胞およびVEGFの局所投与群を設定し、唾液分泌量や唾液腺組織の組織学的な経時的変化を観察する。唾液分泌障害のモデルマウス作出のためのマウス(C57BL6J)や唾液分泌量測定に用いる器具・器材等の消耗品が必要となる。さらに、平成25年度には作出した唾液分泌障害のモデルマウスから採取した唾液腺組織を用いて解析を行うため、実験動物に加えて組織学的検討に用いる標本の作製に関わる試薬やスライドグラス等の消耗品の購入が必要となる。3. 旅費等:平成23年度の研究からマウス歯髄細胞には、血管内皮細胞への分化能を有する細胞が含まれていると示唆される結果が得られたため、この研究成果の学会発表を予定している。
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