研究概要 |
本研究課題は、脳卒中に伴う摂食嚥下障害発生機構を神経解剖学的手法により解明することを目的としたものである。平成25年度は、「再現性」が高い脳卒中モデルラットの作出を試みた。「再現性」を高めるためには、動物の死亡率が低いこと、手技が複雑でないこと、梗塞(虚血)の範囲が一定になること、などが必要となってくる。平成25年度は、大脳半側局所虚血モデルとして多く利用されている中大脳動脈(middle cerebral artery, MCA)閉塞モデルの作出を試みた。このモデルでは、線条体(大脳基底核)や大脳皮質の広い領域に虚血を生じることもあり、ヒトの脳虚血の臨床的モデルとしてしばしば利用されている。筆者らは、Uluçら(2011)の方法を参考に、現在多くの研究者により用いられる血管内閉塞モデル(intraluminal MCAO model)による虚血モデル作成を実施した。しかし、虚血範囲を一定にすることは非常に困難であった。そのため、摂食嚥下機能を含む口腔顔面機能への影響が不定となり、機能の異常が虚血によるものか、それ以外の因子によるものかの考察が極めて困難であった。しかしながら、本研究で作成したモデル動物の一部で、手術前に比べた手術後の食餌量の減少を確認しており(未発表)、摂食嚥下機能に何らかの影響が生じている可能性がある。また、正常ラットを用いた実験結果から、大脳皮質の運動野のみならず感覚野からも顎運動を制御する線維連絡があることを明らかにした。したがって、大脳皮質の広い領域が顎運動をはじめ、口腔顔面機能の制御に関わっており、脳虚血が直接的に摂食嚥下障害をもたらす可能性が高いことが示唆された。今後は、脳卒中モデル動物の作出方法にさらなる改良を加え、摂食嚥下機能への影響を検討する必要がある。
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