研究課題/領域番号 |
23592731
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松尾 龍二 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (30157268)
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研究分担者 |
小橋 基 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (80161967)
寺山 隆司 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (60333689)
美藤 純弘 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20240872)
藤田 雅子 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助手 (40156881)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 唾液分泌 / 唾液核 / 自律神経 / ニューロンネットワーク / 興奮性神経 / 抑制性神経 / 顎運動 / 大脳皮質 |
研究概要 |
本研究の目的は、唾液腺を支配するニューロンネットワークを解剖学的・生理学的に解析し、唾液分泌機能の維持・再生に関与する神経メカニズムを明らかにすることである。このため当該年度(平成23年度)には、以下の免疫組織化学的実験と電気生理学的実験を中心に行ない、一部のデータは学会発表を行なった。 免疫組織化学的実験では、唾液分泌の中枢神経系を明らかにするため、ラットの唾液核(唾液腺を支配する副交感神経の第一次中枢)に蛍光色素フロルゴールドを注入して、上位の中枢を逆行性に同定した。さらに同定した上位中枢が興奮性神経であるか抑制性神経であるかを免疫染色で検索した。その結果、前脳(主に視床下部外側野、扁桃体中心核、室傍核、視索上核)では興奮性神経が主体であり、下位脳の網様体には多数の抑制性神経も存在することが明らかとなった。また唾液核との連絡が強い部位は、視床下部外側野(摂食中枢)、大脳皮質(咀嚼野)、下位脳の網様体であった。この結果を基に電気生理学的実験では、ラットの大脳皮質咀嚼野を電気刺激し、唾液分泌とリズミカルな顎運動を誘発させた。その結果、大脳皮質には主に顎運動を誘発する部位と顎運動と唾液分泌を誘発する部位が存在することが判明した。 組織学的所見により、唾液核には抑制系が作用しており、咀嚼などの唾液分泌が必要な時に、抑制が解除される機構があることが示唆された。また大脳皮質の刺激実験により、唾液分泌のニューロンネットワークは他の口腔機能(顎運動)とは独立する傾向が強いことも示唆された。この仮説を基に次年度以降は、唾液分泌機能の維持・再生に関与する神経メカニズムを解明していきたい。なお当初予定したパッチクランプ法での上唾液核細胞の伝達物質の分析では、新たにアセチルコリンの作用を見出した。唾液腺からの内臓感覚の分析は、記録に成功したがデータ数が乏しいため、次年度以降に分析を行なう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度(平成23年度)の研究計画では、1)唾液分泌の中枢神経系を明らかにするため、免疫組織化学的実験とパッチクランプ法による神経活動の記録実験、2)唾液腺からの内臓感覚を分析するため、唾液腺に分布する感覚神経からの記録実験、3)神経系の唾液腺を維持・再生する機能を分析するため、唾液腺萎縮ラットからの神経活動記録実験を行なう予定であった。当該年度において、1)については学会発表まで行なうことが出来た。とくに免疫組織化学実験では、抑制性と興奮性の神経を区別して中枢神経系を同定することができた。またこの実験から派生した疑問点(大脳皮質刺激による顎運動と唾液分泌の比較)を予定外であるが遂行している。パッチクランプ法による記録実験では、興奮性の伝達物質としてグルタメートとアセチルコリンを、抑制性の伝達物質としてGABAとグリシンを見出した。2)については、記録に成功しており、次年度以降に例数を確保し分析する段階に達している。3)については、モデル動物の作成を行なっており、次年度以降に神経記録実験に着手することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、上記1)の免疫組織化学的実験の追加実験、パッチクランプ法による神経活動の記録の追加実験、を主体的に行なう。またこの実験から派生した大脳皮質の刺激実験を補完する。2)と3)については、1)の実験が基盤となるため、データの収集のみに主点を置き、分析については次年度以降になる可能性がある。 なお1)の実験は、当初の予想以上に派生する疑問点が浮上している。その一つが大脳皮質の機能であり、また摂食中枢である視床下部外側野から唾液分泌中枢(唾液核)に対する神経入力が組織学的に予想以上に大きいことから、この機能を分析しておく必要がある。このため、この部位に着目した行動学的実験も2)と3)の実験に並行して行なう予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度(平成23年度)は、免疫組織化学実験により唾液分泌の中枢神経系を明らかにしたが、この実験結果により派生した問題を分析するため、大脳皮質の刺激実験を行なった。このため、当初の予定よりも免疫組織化学実験とパッチクランプ法による神経活動の実験に費やす器具と消耗品の研究費を次年度(平成24年度)に持ち越すこととなった。次年度に持ち越した研究費で、免疫組織化学実験とパッチクランプ法による実験の追加実験を行なう。 次年度の実験は、おおむね現有設備で実験可能であるが、50万円以下のデータ収集用パソコンとデータ解析用のソフト等が必要である。大半の研究費は、薬品等の物品費、学会発表、論文発表の費用に使用する予定である。
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