研究課題/領域番号 |
23592748
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
上條 竜太郎 昭和大学, 歯学部, 教授 (70233939)
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研究分担者 |
片桐 岳信 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (80245802)
宮本 洋一 昭和大学, 歯学部, 准教授 (20295132)
山田 篤 昭和大学, 歯学部, 講師 (50407558)
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キーワード | 骨芽細胞 / 細胞内pH / 細胞分化 / carbonic anhydrase / MCT-1 |
研究概要 |
細胞は、種々のpH調節タンパク質を用いてpHの恒常性を維持している。本研究の目的は、軟骨細胞や骨芽細胞などの硬組織形成細胞の分化におけるpH調節タンパク質の役割を解明することである。特に、炭酸脱水酵素(CA)とモノカルボン酸輸送体(MCT)の硬組織構成細胞分化における役割を解析することとした. 本年度は、CAのアイソザイムのひとつであるCAIXが軟骨細胞肥大化分化を抑制していることを見出し、その詳細を論文として報告した(PLoS ONE 8 (2):e56984, 2013)。その概要は以下の通りである。 1.マウス長管骨の成長板軟骨におけるCAIXの発現を解析した結果、CAIXは、静止軟骨細胞層から増殖軟骨細胞層に発現し、肥大軟骨細胞層では、著しく発現が低下していた。 2.マウス肋軟骨細胞にCAIX遺伝子(Car9)のsiRNAを導入したところ、アグリカン遺伝子の発現とプロテオグリカン産生の低下が起こり、肥大軟骨細胞のマーカーである10型コラーゲン遺伝子(Col10a1)の発現が誘導された。一方、2型コラーゲン遺伝子の発現はCar9 siRNA導入の影響を受けなかった。 3.CAIXの発現抑制により、低酸素応答性転写因子は転写レベルでHif-1alphaからHif-2alphaに変化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CAIXは、低酸素応答性の転写因子であるHif-1alphaによって発現が誘導される細胞膜結合型のCAである。Hif-1alphaは、成長板の静止軟骨細胞層から増殖軟骨細胞層で発現し、Sox9の発現を誘導することで軟骨細胞の増殖と形質の発現・維持に重要な役割を果たしていることが知られている。 我々は、マウス長管骨の成長板軟骨におけるCAIXの発現を解析した。その結果、CAIXは、静止軟骨細胞層から増殖軟骨細胞層に発現し、肥大軟骨細胞層では、著しく発現が低下していた。CAIXの発現低下と肥大化分化の関係を解析するため、マウス肋軟骨細胞にCAIX遺伝子(Car9)のsiRNAを導入した。その結果、アグリカン遺伝子の発現とプロテオグリカン産生の低下が起こり、肥大軟骨細胞のマーカーである10型コラーゲン遺伝子(Col10a1)の発現が誘導されることを見出した。一方、2型コラーゲン遺伝子の発現はCA9遺伝子のsiRNA導入の影響を受けなかった。このことは、CAIXが静止軟骨細胞、増殖軟骨細胞の形質の一部の維持およびCol10a1遺伝子の発現抑制に必要であることを示唆している。我々はさらに、CAIXの発現抑制が低酸素応答性転写因子を転写レベルでHif-1alphaからHif-2alphaに変化させることを発見した。Hif-2alphaはCol10a1の発現を誘導することが報告されているが、Hif-2alpha遺伝子の発現とCol10a1の発現には、直接の関連はなかった。 以上のように、我々は今年度、pH調節タンパク質のひとつCAIXが成長板軟骨細胞の肥大化分化の制御をしていることを世界で初めて報告することができ、研究目標を十分達成していると考える
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、pH調節タンパク質であり、筋肉や神経におけるエネルギー代謝の重要な調節因子であることが知られているMCTに注目し、硬組織構成細胞の分化・増殖におけるMCTの役割の解明を主要な目標として研究を進める。特に、糖尿病では骨質の低下が大きな問題となっていることから、骨芽細胞の分化におけるMCTの役割を解析する。 初代培養マウス骨芽細胞や骨芽細胞株におけるMCTサブタイプの発現を解析する。その際、主要なMCTサブタイプを同定するとともに、骨形成因子(BMP)存在下あるいは石灰化誘導培地などにおける培養条件で、そのMCTサブタイプの発現の変化を検討する。その後MCT阻害剤存在下あるいは、上で同定されたMCTサブタイプの発現を特異的なsiRNAで抑制し、BMP依存的な骨芽細胞分化解析する。 上記の骨芽細胞培養系にMCTが輸送するエネルギー代謝に関与する各種モノカルボン酸を添加し、骨芽細胞分化および石灰化物の物理化学的性質に対するモノカルボン酸の影響を同様に解析する。いずれかのモノカルボン酸の添加で骨芽細胞分化や石灰化物の性状に変化が認められた場合は、MCT阻害剤の添加あるいはMCTサブタイプの遺伝子siRNAを導入することで、MCTの関与を確認し、関与するMCTサブタイプを同定する。以上の解析で重要なモノカルボン酸およびMCTサブタイプが特定された場合は、マウス頭頂骨あるいは長管骨の器官培養を用いて、モノカルボン酸添加、MCT阻害、MCTサブタイプ発現抑制の影響を評価する。この際培養液のpHをモニターし、pHの変化が認められる場合は、pHを人為的に変化させ、骨芽細胞の分化、石灰化に対するpHの影響を解析する。また、培養骨芽細胞を用いて、MCT下流のシグナルを各種阻害剤等を用いて解析する。 以上により、骨芽細胞の分化におけるモノカルボン酸およびMCTサブタイプの役割を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.細胞培養に関する費用:常に培養細胞の品質を高く保つために、細胞培養器具および培地・血清等への出費が必要である。また、細胞分化誘導のためにサイトカインその他の試薬を購入する。2.細胞解析に係る費用:遺伝子ノックダウンを行うためのsiRNA を購入する。3.動物の購入および飼育費用を必要とする。4.遺伝子発現解析に係る費用:RT-PCR 法およびReal-time RT-PCR 法を用いた解析を行うためのプライマー・プローブ(種々のCA、MCTサブタイプ等)と試薬類を購入する。5.タンパク質発現解析、細胞内シグナル伝達解析:、Western blot 法、免疫組織染色法、Electrophoretic mobility shiftによる解析を行うため、各種抗体(CA、MCTサブタイプ、各種MAP キナーゼ、Smad 等に対する一次抗体)を購入する。6.汎用器具:マイクロチューブ、遠沈管、マイクロピペット用チップ、試薬瓶等を購入する。7.旅費:日本骨代謝学会、歯科基礎医学会等で研究成果を発表するための旅費として使用する。8.論文投稿費用として使用する。
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