研究課題/領域番号 |
23592759
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
林 孝文 新潟大学, 医歯学系, 教授 (80198845)
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研究分担者 |
斎藤 美紀子 新潟大学, 医歯学系, 助教 (90401760)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 口腔癌 / 頸部リンパ節転移 / 画像診断 / CT perfusion / CT潅流画像 |
研究概要 |
[対象と方法]本学歯学部倫理委員会で承認を得たCT perfusion(以下CTP)の適用基準に即して、インフォームドコンセントを得たのちに撮影を行った(承認番号 23-R4-11-06)。管電圧を80 kVpとし、造影剤40 mLを4 mL/secの速度で注入し、注入開始後5秒から50秒までの間、1秒ごとに連続スキャンし画像データを収集した。CTP解析は、Single compartment kinetic model(ザイオソフト)を用いた。[結果]症例1(70代・男性)両側舌癌:CTP画像評価は不完全な結果となった。症例2(60代・男性)両側舌癌:病理組織学的に転移陽性であった左中内頸静脈リンパ節に対してCTP解析を行った結果、単位時間当たりの組織内血流量(SC Flow)の平均値は1.86 min-1であり、対側の同名リンパ節の1.32 min-1と比較して1.4倍と有意に多い傾向が認められた。症例3(60代・男性)右側口底癌:病理組織学的転移リンパ節は認められなかったが、患側の右中内頸静脈リンパ節に対してCTP解析を行った結果、SC Flowの平均値は1.29 min-1であり、対側同名リンパ節の1.07 min-1と比較して1.2倍程度にとどまっていた。症例4(40代・女性)右側下顎歯肉癌:病理組織学的に大部分が腫瘍に置換されていた右上内頸静脈リンパ節に対してCTP解析を行った結果、SC Flowの平均値は1.31 min-1であり、対側同名リンパ節の0.91 min-1と比較して1.4倍と有意に大きい傾向が認められた。一部のみが置換されていたリンパ節では1.13 min-1であり、対側同名リンパ節と比較して1.2倍程度にとどまっていた。[結論]SC Flowは個人差が大きいものの、対側同名リンパ節と比較することで転移の有無の判定に役立つ可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、平成24年3月31日の時点で4症例に対し、CTP画像撮影を施行した。4症例いずれにおいても、撮影に際して特記すべき副作用・合併症等の不利益は生じなかった。特に症例2については、超音波組織弾性イメージングや病理組織像との対比を良好に行うことができたため、第109回新潟臨床放射線学会、第30回日本口腔腫瘍学会総会・学術大会、第31回日本画像医学会で報告を行った。ただし、症例1については、画像再構成間隔が細かすぎたためノイズの発生量が多く、パラメータ評価には不完全な結果となった。症例数は年間10症例程度を予定していたが、倫理委員会での承認を待って8月から開始したことを考慮すると、概ね順調に進展していると判断された。CTPの撮影方法については、(1)上咽頭~中頸部の範囲を単純CT撮影し、その後に(2)経静脈的造影下で上咽頭~鎖骨上窩の範囲の撮影を行った。非イオン性ヨード系造影剤370 mgI/mLを100 mL使用し、造影剤自動注入機により、造影剤を1.5 mL/secの速度で60 mLを投与し、造影剤注入開始後70秒の時点でスキャンを開始した。続けて(3)CTP撮影はシネモードとし、被曝線量低減と組織コントラスト向上を意図して管電圧を80 kVpとし、64列×0.5 mm=32 mmの範囲に目的のリンパ節が含まれるように撮影断面を設定し、造影剤自動注入装置により造影剤40 mLを4 mL/secの速度で注入し、引き続き40 mLの生理的食塩水の追加注入を行った。注入開始後5秒から50秒までの46秒間、1秒ごとに連続スキャンし画像データを収集した。平成23年度はこの撮影条件を4症例すべてに統一して適用し行ったが、CTP解析で基準となる頸動脈のCT値が生理的食塩水の追加注入により無視できない影響を受けることが明らかとなったため、見直しを行う必要性が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
Single compartment kinetic model利用を前提としたCTP解析における組織内血流量(SC Flow)については、3症例のみの結果であり確定的見解には及ばないものの、SC Flowの値は個人差が大きいということ、このため対側の同名リンパ節と比較することで転移の有無の判定に役立つ可能性が示唆された。特に、大部分が腫瘍により置換されたリンパ節ではSC Flowの値が1.4倍程度となる傾向がみられたが、リンパ節の一部のみが置換されていた場合には1.2倍程度にとどまっており、リンパ節のどの程度の範囲が腫瘍に置換された場合にCTPで転移として検出可能かについて今後明らかにする。また、通法として示されている40 mLの生理的食塩水の追加注入については、CTP解析で基準となる頸動脈においては静脈確保されている肘静脈からの距離が近いため、造影剤の濃度変化が影響を受けて単一のピークを描かずに複数のピークが現れて解析精度を低下させる可能性が認められたため、追加注入の方法について再検討を行うこととする。さらに、Single compartment kinetic modelについては、その適用の前提条件が「血管外細胞外腔への造影剤の移行は無視しうること」とされており、脳組織には合致する条件であるが、リンパ節等の一般的な組織においては、実際には若干の造影剤移行のある1入力・2組織腔・1出力の 2コンパートメントモデルが適するものと考えられるため、このモデルの適用の限界についても研究協力者の協力のもとに検討を加え、必要な解析方法の改良を図ることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に得られた結果に基づき、引き続き研究協力者(ザイオソフト(株)マーケティング部長・清水聡)と連携し、撮影条件の見直しを行い、引き続き症例数を重ねて口腔癌患者の造影CTP撮影とCTP解析ならびにその再検討を行う。具体的には、(1)CTP解析で基準となる頸動脈における造影剤の濃度変化に対する生理的食塩水の追加注入による影響の排除、(2)Single compartment kinetic modelの適用の限界に関する解析と改良のための方策の検討、である。研究経費については、引き続きSingle compartment kinetic modelに基づくCTP解析ソフトウェアをレンタルにて運用し解析を行うこととする(年間80万円を計上)。また統計解析ソフトを購入し以下の解析を進める。すなわち、平成23年度のデータと統合して、SC Flow等のパラメータごと、及び複数のパラメータの組み合わせによる転移陽性診断基準設定を行い、さらにこれに基づいて診断精度(感度、特異度、正診率、PPV、NPV)を明らかにし、ROC解析を行う。また、数値化された各パラメータと、免疫染色により導出された病理組織学的な血管密度分布との相関関係について統計学的な解析を行う。旅費については、NPO 法人日本歯科放射線学会第53回学術大会・総会(6月,盛岡)、第9回アジア口腔顎顔面放射線会議(9月,西安,中国)、第31回日本口腔腫瘍学会総会(2013年1月,東京)にて、研究成果発表と研究打合せを行う予定である。
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