研究課題/領域番号 |
23592765
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
澤尻 昌彦 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20325195)
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研究分担者 |
野村 雄二 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (80218370)
滝波 修一 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (60154952)
谷本 啓二 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (10116626)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 実験腫瘍学 / がん治療 / 咽頭歯骨 / 破骨細胞 |
研究概要 |
骨浸潤性腫瘍に対する放射線治療の質的向上と放射線治療後の骨の機能と温存が重視されている。骨系細胞に対する放射線照射実験における生化学的評価に加えてin vivoにおける生体の反応、形態学的観察が不可欠となる。我々は炭素粒子線,ガンマ線をそれぞれ照射したメダカ(Oryzias)咽頭歯骨部を用いて放射線照射後の骨代謝,破骨細胞誘導サイトカイン等のシグナル伝達物質を生化学的に計測してきたが,これに加えて形態学的,免疫組織学的変化の観察を行い,組織学的に骨代謝因子の分布を調査するため,メダカを用いて免疫電顕による分布と微細構造を調査してきた。 メダカに対してガンマ線,重粒子線照射の後,組織学的に破骨細胞の分化が促進あるいは抑制されることが確認できた。電子顕微鏡による観察ではこれらの破骨細胞は主に単核の細胞であり,ruffled border が乏しいことなど哺乳類の破骨細胞との差が認められた。特に咽頭歯周辺では活性化した骨芽細胞も観察され、盛んに骨の吸収と添加が行われていることが予想され,さらに免疫電顕によって咽頭歯骨における各種骨代謝に関わるサイトカインの発現分布状態を明らかにすることが求められる。現在,免疫染色に必要な抗体が市販されていないために,研究者自らが抗体作成することが必要であるが,抗体作成が進捗することで骨代謝因子の放射線照射による局在の変化を観察することが有効となるであろう。 現在メダカを用いて放医研の協力によって内部被曝の実験を準備している。すなわち放射線セシウムを含む餌の投与によってメダカによる内部被曝モデルを作り実験に用いる予定である。メダカは寿命も短く,発がんや骨代謝におよぼす影響を観察することは困難と思われるが,骨代謝関連臓器の内部被曝変化を見ることががん放射線治療の向上および内部被曝を含めた放射線障害防止方法の確立にも有意義なものとなるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年メダカを用いた実験研究が盛んになってきたのはメダカ(Oryzias)とヒトは共通の遺伝子が多く,咽頭歯骨において哺乳類と同様の破骨細胞による骨吸収が見られることが明らかになってきたためである。しかし,現状では実験に欠かせない抗体など実験に必要な試薬,実験装置で市販のものが少ないため研究者自らが作成して実験に臨む必要がある。放射線照射実験などの場合ではメダカを傷害しない状態で照射装置に保持するために試行錯誤を重ね,安全確実に照射できるまで相当の時間を費やしてしまった。実験手技においても過去の研究による文献もマウス等の小哺乳動物を用いたものと比べ少ない。さらに哺乳動物に比べて寿命が短く長期間実験には不適と思われるが,メダカは大量飼育が可能でサンプルも数多く作成できる。しかし,メダカ(Oryzias)咽頭歯骨部を用いて放射線照射後の骨代謝,破骨細胞誘導サイトカイン等のシグナル伝達物質を生化学的に計測するにはサンプルが微少なために操作性が悪く,試行錯誤の状態が続いた。組織学的計測もサンプルが微少なためにテクニカルな難点が多くやや計画が遅れ気味であることは否めない。
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今後の研究の推進方策 |
最近になってメダカのゲノム,タンパクのシーケンスなどの公開情報が格段に充実したために,抗体の作成なども準備期間の短縮が期待できる。照射装置の改良などにも放射線医学総合研究所の協力によりテクニカルな問題に伸展が図られた。今後も放医研との共同で実験を推進する予定である。現在放医研では内部被曝のモデル動物としてメダカを使用するために準備を進めている。 メダカは寿命が短くガンの発症や治療効果の実験には適さないと思われるが,発生から成長に過程で内部被曝があった場合いかなる放射線障害が起こりうるかとりわけ骨代謝関連臓器である造血器官,腎機能などの影響を調査するには適当な実験動物と考えられる。サンプルの数が多くとれるために外部被ばくとの比較も行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
機器類に関しては特殊なものは不要でほぼ充足している。今後は試薬,消耗品の購入に多くを使用するであろう。メダカを実験動物として使用する研究者,研究機関は増えているが全体から見ると未だ少数で市販の抗体などまれであり,このために基本的な試薬の購入によって研究者自らが実験に必要な装置や薬剤を作成する必要がある。これらが研究遂行の上で困難の要因であるが,放医研をはじめ他の研究機関との連携が必要な所以である。他機関との通信連絡などに経費が必要となるであろう。
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