研究課題/領域番号 |
23592778
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
浅野 正岳 日本大学, 歯学部, 准教授 (10231896)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ロタウイルス / インターフェロン / 上皮細胞 |
研究概要 |
腸管上皮細胞HT-29にロタウイルスSA11株を感染させ、microarrayにより非感染細胞との間の遺伝子発現の変化を検索した結果、感染細胞でtype IIIインターフェロンmRNAの発現が高度に誘導されることを確認した。real-time PCRおよびELISA法によりtype IIIインターフェロンの発現および分泌について検討したところ、mRNAおよびタンパク質レベルでtype IIIインターフェロンが誘導されていることが確認された。この現象がHT-29特異的変化であるか否かを検証する目的で、SA11に加えてRRV株をまた、HT-29に加えてT84 およびCaco2細胞を用いて同様に検索した。その結果、T84ではHT-29と同様の誘導が見られたがCaco2では全くtype IIIインターフェロンの誘導は起こらなかった。Caco2におけるロタウイルスの感染は、VP6遺伝子の発現をRT-PCRにより検出することで確認した。従って、Caco2におけるtype IIIインターフェロンの誘導の欠如はロタウイルス非感染によるものでないことが確認された。type IIIインターフェロンの誘導メカニズムを検索する目的で、HT-29にTLR3、RIG-IおよびMDA5に対するsiRNAをtransfectionし、SA11感染実験を行った。その結果、ロタウイルスの感染は主にRIG-Iにより感知されていることが解った。これらの実験と並行してヒト口腔扁平上皮癌細胞Ca9-22を用いてロタウイルスの感染実験を行い、RT-PCRによりVP6遺伝子の検出に成功している。また、マウスにおける感染実験を見据え、mouse embryonic fibroblast (MEF)の分離とこれを用いた感染実験を行った。その結果、ロタウイルス感染によりtype Iインターフェロンが産生されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究により、ヒト腸管上皮細胞、ヒト口腔扁平上皮癌細胞およびマウスMEF細胞を用いた感染実験を確立することができた。ヒト腸管上皮細胞HT-29を用いた研究から、ロタウイルスの感染はRIG-Iにより感知されていることが解り、type IIIインターフェロン誘導のシグナル伝達系の解明に向けて大きく前進したものと考えている。また、マウスMEFを用いた研究の結果から判断して、ヒトとマウスではロタウイルス感染に対する反応が著しく異なる可能性が考えられ、ヒトにおけるロタウイルス感染とその予防を考える上で極めて重要な成果であると考えている。さらに、Caco2細胞においてはロタウイルス感染が成立しているにもかかわらずtype IIIインターフェロンの誘導が惹起されなかったという結果は、ロタウイルス感染に続くヒト細胞における抗ウイルス活性の獲得のメカニズム解明の為に極めて重要な結果であろうと考えている。以上、研究1年目の結果は、ヒト口腔粘膜へのロタウイルス感染の可能性を追求するという本研究の目的の足がかりを築くことができたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度はこれまでに得られた結果に基づき以下の実験を立案している。1)Caco2細胞におけるtype IIIインターフェロン誘導の欠如: HT-29とCaco2における遺伝子発現の違いをPCR arrayにより検索する。これにより両細胞で著しく発現の異なる遺伝子を網羅的に解析すると共に、最も発現の違いが大きい遺伝子を選択し、ロタウイルス感染における当該遺伝子の機能的役割について検索する。2)type IIIインターフェロン誘導のシグナル伝達系の研究: RIG-Iにより感知されたロタウイルス感染がどのような分子メカニズムによりtype IIIインターフェロンの産生を誘導するのかという点に関して、siRNAのtransfection実験および各種インヒビターを用いた実験を行う。特にNF-kBやinterferon responsive factors (IRFs)の関与についてはロタウイルス由来のnon-structural protein 1 (NSP1)との関連において重要であり、NSP1発現の時間経過とtype IIIインターフェロンの誘導に関して詳細に検討する。3)ヒトとマウスの違い: ヒトとマウスの細胞でロタウイルス感染に対する反応が異なる可能性が考えられた。そこでロタウイルスの本来のターゲットと考えられる腸管上皮細胞を用いて、ロタウイルス感染実感を行う。すなわち、マウス腸管によるex vivo実験システムの確立を目指す。4)口腔粘膜上皮への感染: Ca9-22に加えHSC2、HSC3細胞などにおけるロタウイルス感染とそれに伴う遺伝子発現の変化について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に開催予定とされていた"11th International Symposium on Double-stranded RNA virus"が平成24年度の開催となり、このために計上していた外国旅費を、また試薬購入用に計上した費用の一部に若干の余裕があり、これらを平成24年度繰り越しとした。平成24年度は当初計画した研究に使用する研究材料の購入に加え、上記シンポジウムでの発表を行う。またロタウイルス由来の非構造タンパク質であるNSP1の発現とtype IIIインターフェロンの誘導との関係を追求する目的からWestern blottingを多用することが考えられ、実験の効率化を目的として、より短時間にWestern transferを行える装置を、同時に実験台の老朽化に伴う新しい実験台の購入が不可欠であり、これらの購入を予定している。また、共同研究の可能性を模索するため、International vaccine institute(韓国)での研究発表を計画しているほか、国内で開催される口腔科学会(広島)、歯科基礎医学会(福島)での発表、さらに、日本大学生産工学部から実験協力者 佐藤岳(大学院生)を受け入れ予定であり、このための支払いに充てることとしている。
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