研究課題/領域番号 |
23592778
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
浅野 正岳 日本大学, 歯学部, 准教授 (10231896)
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キーワード | ロタウイルス |
研究概要 |
平成24年度は、ロタウイルス感染に続くtypeIIIインターフェロン産生がヒト腸管上皮細胞間で異なることに着目し、1)Caco2細胞とHT-29細胞の質的違いについてPCR arrayを用いて発現に差の認められる遺伝子を探索した。その結果、RNAウイルスの増殖副産物を認識するレセプターであるRIG-I分子に類似したタンパク質PYCARDの発現がCaco2では全く認められないことが分かった。この結果をもとにCaco2にPYCARDをtransfectionし、ロタウイルス感染に伴うtypeIIIインターフェロンの産生を検索したが、typeIIIインターフェロンの産生を誘導することはできなかった。一方、ロタウイルス感染の実質的レセプターがRIG-Iであるか否かを確認するために、RIG-Iに対するsmall interfering RNA (siRNA)を用いたknockdown実験を行ったところ、コントロールと比較して優位にtypeIIIインターフェロン産生を抑制することができた。 マウスとヒトの感染様式の違いを検討する目的でマウス新生児腸管を用いたex vivo感染モデルの作成を試みた。real-time PCR法では明らかなロタウイルス由来のVP6遺伝子の発現を確認することはできたものの、感染後14時間経過した段階で行った蛍光免疫染色については感染を確認することができなかった。 口腔由来の上皮細胞への感染に関してはreal-time PCRおよびreverse transcriptase PCRにより確認した。また、蛍光免疫染色でも感染は確認されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、口腔粘膜上皮に対するロタウイルスの感染の有無について検索することを目的としている。その前段階として、ロタウイルスの本来の感染ターゲットである腸管上皮細胞を用いてロタウイルス感染を感知するレセプターがRIG-I分子であり、類縁タンパク質であるMDA5が補助的に働いている可能性を突き止めた。現時点でこれら両分子が重要であることは文献的に示されているものの、ヒト培養細胞でこの事実を再確認できたことの意義は大きいと考えている。この結果に基づき、口腔扁平上皮細胞でもこれらの分子の発現が認められるのか否か、またその下流のシグナル伝達系がいかなる分子により担われているのかを引き続き検索する予定である。当初予定していたロタウイルスの感染とそのシグナルシステムの解明という目的におおよそ沿った形で研究を進行させていると考えている。一方、マウスの口腔内に直接ロタウイルスを感作用させて口腔粘膜上皮における感染の有無を形態的に観察する実験に関しては、マウス腸管組織を摘出したex vivoモデルでの予備実験を行った。PCRでの検出には成功したものの組織染色による感染の確認には至っておらず、この点に関しては今後も検索を続けていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
培養腸管上皮細胞を用いたロタウイルス感染実験の結果、typeIIIインターフェロン産生が誘導されることが確認された。今後はtypeIIIインターフェロンがロタウイルスの感染を抑止しうるのかという点についてさらに検討する。現時点では、感染抑制に関してpositiveなデータは得られておらず、細胞の種類を変えて実験を行うということも含めて検討していく。また、ロタウイルス感染を察知するレセプターであるRIG-IおよびMDA5の関与については、口腔上皮細胞を用いた実験を行う予定である。 ロタウイルスは感染した細胞内でウイルス由来のNSP1タンパク質を産生し、宿主細胞内のNF-kBおよびIRFのシグナル系を破壊することが知られている。本研究においてはロタウイルス感染により誘導されるtypeIIIインターフェロン産生が主にNF-kB経路を介して伝達されることが明らかとなっている。今後は、この事実をさらに確認するために、NSP1の機能的mutantであるロタウイルスUK株を用いて同様の実験を行いNSP1のシグナル破壊作用の関与について研究を行う予定である。 口腔上皮細胞に対するロタウイルスの感染性についてはPCR法によりすでに培養細胞では確認しているが、動物の組織を用いた免疫組織学的検索では感染を確認するには至っていない。この点については条件をさらに検討し種々の薬剤や物質の感染抑制効果を検討しうるシステムの開発を心がけるとともに、口腔粘膜上皮組織における感染検出についても検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、ロタウイルスUK株を用いた実験を予定している。これに関しては教室現有の実験器材によりすべての実験を執行可能であると考えている。そこでtypeIIIインターフェロン測定のためのELISAキットやシグナル伝達の阻害剤、免疫組織化学的な実験のための蛍光抗体などの購入に研究費を当てたいと考えている。また、本研究の遂行に当たり、細胞培養用のプラスティック製品や培養液、牛胎児血清などは必要不可欠であり、これらの消耗品の購入も予定している。24年度研究費の未使用分である2,644円は消耗品費の余剰分であるが、上記消耗品の購入に充てる予定である。
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