研究課題/領域番号 |
23592781
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
梨田 智子 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 准教授 (10133464)
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研究分担者 |
今井 あかね 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 准教授 (60180080)
吉江 紀夫 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 教授 (30095278)
下村 浩巳 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 教授 (40139259)
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キーワード | アクアポリン / シェーグレン症候群 |
研究概要 |
本年度の目標は,アクアポリン5に結合するタンパク質を同定することであった。アクアポリン5のC末の細胞質内領域部分を樹脂に結合させ,マウス耳下腺ホモジネートから結合するタンパク質を抽出した。まず,NHS HP Spin Trapキット(GE Healthcare)にアクアポリン5のC末サイトゾール部分のペプチドを樹脂に結合させた。アクアポリン5C末にはリン酸化部位があるので,樹脂結合アクアポリン5のC末にプロテインキナーゼA処理を行い,リン酸化されたものも作成した。コントロールマウスから耳下腺ホモジネートを調製し,1%Triton X-100で溶解した後,樹脂に結合する画分を捉えた。得られた結合タンパク質画分について,二次元電気泳動後,銀染色によりタンパク質スポットを検出した。リン酸化による明らかな相違は見いだせなかったので,非リン酸化C末に結合するタンパク質についてのみ,解析することにした。得られた5スポットについてMS/MSイオンサーチを委託して解析中である。 一方,糖尿病発症NODマウス耳下腺について,新規の病態が見つかり,これについて解析した。すなわち,アクアポリン8の発現が病態マウス耳下腺で低下したことから,この原因を筋上皮細胞の衰退であることを明らかにし,学術雑誌に投稿し公表された。また,遺伝子解析から,耳下腺においてシスタチンDの発現が非常に高いこと,糖尿病NODマウスでこのmRNAの発現が上昇していたことから,mRNA遺伝子およびタンパク質発現と生体内分布と代謝を調べたところ,シスタチンDは血液を介して全身に循環すること,耳下腺周囲に存在する免疫提示細胞にこのタンパク質が取り込まれることが明らかとなり,シスタチンDは免疫提示機構になんらかの役割を果たしている可能性があることが示唆された。この結果を投稿し,公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はNHS HP Spin Trapキット(GE Healthcare)を用いて,アクアポリン5のC末サイトゾール部分のペプチドを樹脂に結合させて耳下腺ホモジネートとインキュベートし,樹脂に結合する画分を得ることによりアクアポリン5と結合するタンパク質を同定することが一番の目標であった。現在,二次元電気泳動により5スポットが得られているが,現在まだMS/MSの解析中である。また,スポットの分子量などの情報と前年度に得られたcDNAマイクロアレイの結果と合わせて,可能性の高いタンパク質について検討している。数種類の候補があるが,その中から可能性のあるタンパク質Xが予想された(まだ発表する段階ではないのでXと仮称する)。このタンパク質について現在解析中である。 また,インキュベーションの条件を変えてアクアポリン5に結合するタンパク質を同定することが次の計画であったが,リン酸化アクアポリン5C末に結合する画分の二次元電気泳動を行ったものの,非リン酸化C末結合画分と比べて明らかな相違のあるパターンは得られていない。現在のところ,リン酸化の有無による相違はないものと考えている。 二次元電気泳動による検索が当初の計画よりも難攻したため,結合タンパク質の同定については達成度が低いといえる。しかしながら,前年度得られたcDNAマイクロアレイの結果から,非常に多くの正常および病態に関する遺伝子発現についての情報が得られた。その中で,唾液中の分泌タンパク質(シスタチンD)が免疫提示機構に関与する可能性があることが示唆され,今後唾液成分の新たな機能が解明されると予想された。さらに,糖尿病マウスで筋上皮細胞が減退することが初めて示され,Sjogren’s症候群で唾液分泌機能が減退する理由の一つが示唆された。これは正常時における唾液腺の筋上皮細胞の役割についても新たな知見と言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から,アクアポリン5はアクチン結合タンパク質と相互作用している可能性が高いと予想される。cDNAマイクロアレイ解析,プロテオーム解析,およびIPA解析から,可能性の高いタンパク質候補,および輸送過程について検討する。 ①アクアポリン5のC末サイトゾール部分のペプチドに結合するタンパク質の同定を行う。MS解析により候補に挙げられたタンパク質から,cDNAマイクロアレイの結果を参照して有力なタンパク質を選択し,さらにこのタンパク質に結合するタンパク質をIPA解析により検討する。これらの抗体を購入し,アクアポリン5との免疫組織染色を行うことにより共存性を検討する。 ②糖尿病発病NODマウスについても同様に免疫組織染色を行い,コントロールと比較してアクアポリン5および標的タンパク質の局在性の変化を調べる。 ③正常および糖尿病発症時におけるアクアポリン5の細胞内輸送機構を検討する。①に続いて,さらに直接および間接的に結合するタンパク質を同定するため,C末ペプチドに結合するタンパク質を,二次元電気泳動後,Western blottingにより検討し同定する。これにより,局在性変化の原因となる細胞内輸送タンパク質が推定される。 ④IPA解析と合わせて,アクアポリン5の細胞内輸送機構および糖尿病発病時の変化を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
NODマウスおよびコントロールのマウスの購入および飼育は継続して行う。 アクアポリン5のC末サイトゾール部分に結合するタンパク質のプロテオーム解析を,前年度に追加して行う。経費がかかるので,今年度はMS-MSタンパク質同定を2~4スポット程度を委託して解析する予定である。 前年度行ったcDNAマイクロアレイのデータをさらに詳細に解析するため,専門業者に解析を委託する。細胞内輸送に関係すると予想されるタンパク質から,糖尿病NODマウスで顕著な発現変化のあるタンパク質について,抗体を購入する。 標的であると予想しているタンパク質の抗体作製を委託する。この抗体を用いて,糖尿病NODマウスおよび非糖尿病NODマウス,さらに週齢の違いによるアクアポリン5と標的タンパク質の局在性の相違を二重免疫染色によって検出する。また,C末サイトゾール部分に結合する画分の二次元電気泳動後に,この抗体を用いたWestern blottingを行って相互作用を確認する。コントロールマウスおよびNODマウス耳下腺腺房細胞を細胞分画し,標的タンパク質の局在とアクアポリン5の局在を調べる。また,この抗体を用いた免疫沈降法により,NODマウスおよびコントロールマウス耳下腺ホモジネートから標的タンパク質に結合するタンパク質画分を得,細胞内輸送タンパク質の抗体を用いて相互作用を調べる。糖尿病発現による相互作用の相違を検討することにより病態時に起こる変化を調べる。 結果を学会発表し,学術雑誌に投稿する。そのための経費が必要である。
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