研究課題
唾液中に現れる代謝産物の網羅的解析を行うための基礎的基盤を確立することを目的として、マウス担癌モデルを用いて担癌の状態がどのように唾液成分に反映するのかを検討している。前年度までの研究で、唾液中の代謝産物のプロファイル(=代謝産物の濃度パターン)の再現性が高くなる条件を確立した。さらに健常マウスにトレーサー(通常より中性子が一つ多い炭素である13Cでラベル化した同位体)を腹腔内投与し、(1)血液から唾液に数多くの種類の低分子が移行すること、(2)血中と唾液中の13Cグルコースが高い再現性で一定の比率になること、を確認した。つまり、血中と唾液中の代謝物が一定の比率になるよう定常状態になっているため、癌組織の代謝異常が血中の代謝物の量に変動を与えていれば、唾液でもその異常を検知できる可能性があると考えられる基礎的知見を得た。そこで本年度は、マウス乳癌細胞株4T1をマウスに注射して乳癌を発症させ、正常乳腺細胞株を注入したマウス、または何も注入しないマウスと比較して、組織中・血液中・唾液中でどのような代謝産物が共通して変化しているかを検討した。この中には癌の増殖とともに増加するポリアミン類が含まれており、他にも酸化ストレス関連物質、グリシンがメチル化したサルコシンなど、癌の進行と正の相関が報告されている物質などが見つかった。さらに乳癌を発症させたマウスにトレーサーを用いて、癌組織で高濃度の代謝物が血液→唾液腺→唾液と移行することを確認した。特にオルニチン下流Pathwayの活性化が観測でき、癌化マウスの唾液で高濃度であり、ヒトの唾液を扱う研究課題と整合性の取れる結果を得た。これらの結果は、癌細胞内の代謝Pathwayの異常が唾液で検知でき、癌細胞に特異性が高い物質を見つければ唾液で癌が検査できる可能性を示唆している。
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