歯科でのフッ素の研究は従来から多くなされており、歯質内のフッ素の測定も、その研究の一分野であったが、精度の高いより適切な測定法は確立されていなかった。申請者らは、近年、核反応を用いた歯質内のフッ素定量測定法を新しく開発、改良して、新たな歯質内のフッ素定量測定法を確立してきた。 本研究の遂行により測定方法は確立し、定量測定の基礎となる標準試料も新たに作成することができ、測定手順も軌道に乗るようになった。また得られた測定値の解析に対しての見解が、多くのデータを得ることにより統一された。 従来の歯質のフッ素濃度測定法では、測定後の試料は歯の形態が消失しており、同一試料の経時的変化を追うことができなかった。そのため、脱灰されるときのフッ素濃度の動きは測定できず、歯質内の周辺にフッ素が存在することが、う蝕抑制には必要と認識されていた。本測定法を用いることにより、脱灰進行に際してのフッ素の動きをとらえることが初めて可能となり、歯質内のフッ素濃度が脱灰に際して影響があること、また歯質内のフッ素は脱灰されても放出されるだけでなく再度取り込まれていることが判明した。 さらに、歯質内のフッ素がどのような状態で存在するのかということも、従来のフッ素濃度測定法では確認することはできなかった。KOH浸漬後に残存するフッ素は歯質と結合していると考えられていることから、KOH処理前後のフッ素濃度を測定した結果、フッ素取り込み量は減少する傾向がみられた。このことより、従来測定したフッ素取り込み量には、歯質に付着しているCaF2など歯質と結合していないものが含まれる可能性が示された。 このように従来のフッ素濃度測定法では捉えることができなかったフッ素の動態の一端が定量的にも明らかにされた。この測定法の活用は今後のフッ素の研究を発展させるものである。
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