研究課題/領域番号 |
23592810
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
宮崎 真至 日本大学, 歯学部, 教授 (70239391)
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研究分担者 |
細矢 由美子 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (80112803)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 超音波測定 / 光干渉断層画像法 / 再石灰化 / 脱灰抑制 / 超音波特性 / 耐久性 |
研究概要 |
齲蝕は,脱灰と再石灰化の動的平衡が崩れた結果として生じる病変であり,この動的平衡をいかにコントロールするかが重要である。これを行う手法の一つとして,多種のイオンを徐放するPRGフィラーを含有した歯面コーティング剤の使用が提案されている。PRGフィラーは,フッ化アルミノシリケートガラスを粉砕後,ポリアクリル酸による表面処理を行い,ガラス表層部に安定なグラスアイオノマー層を形成させたものである。そこで,このPRGフィラー含有試作石灰化促進剤の効果について光干渉断層画像法(以後OCT)を用いて検討するとともに,超音波透過法を用いることによって,その結果を比較検討した。また,歯質の形態学的な変化をレーザ顕微鏡を用いて観察し,考察資料とした。実験には,ウシ抜去下顎前歯の唇側エナメル質あるいは象牙質をブロックとして切り出し,耐水性シリコンカーバイドペーパーの#2000まで順次研磨した後,超音波洗浄したものを用いた。これらの試片を,pH4.75に調整した乳酸緩衝脱灰液2mlに10分間浸漬した後,人工唾液中に保管した。なお,この脱灰サイクルは,実験期間を通じて一日2回繰り返した。これらの試片について,超音波送受信装置を用いるとともに,SLD光源から照射された光線が,対象物の内部に入射し,反射あるいは散乱する様相を光学干渉計によって捉えるもので,測定対象の内部構造を光干渉強度と内部位置情報から,精密断層像を得るOCTによって歯質における変化を詳細に分析した。その結果,PRGフィラーを含有した歯質コーティング材は,実験室環境において,歯質に生じる脱灰を抑制するとともに,再石灰化を促進する効果が期待できることが示された。また,再石灰化を非破壊的に評価する指標として,OCTと超音波による計測が有効であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯冠修復物の口腔内における予後を支える重要な因子の一つとして,歯質接着システムの存在が挙げられる。しかし,その長期接着耐久性に関しては,必ずしも安定したものではなく,象牙質基質から放出されるMatrix Metalloproteinase (MMP) などによって劣化する可能性が指摘されていえる。したがって,接着システムの予後を考えると,脆弱な接合界面を検知する手法の立案とともに,劣化部を改善する臨床的手法に関する早急な検討が必要と考えられる。そこで本研究の目的は,象牙質接合界面における接着耐久性の向上効果を判定するモダリティーを考案するとともに,これによって欠陥の生じにくい接合界面を形成することが可能な自己修復性接着システムの一助とすることである。 本年度は,試作PRGフィラーを調整し,このフィラーからの徐放イオン抽出液を精製し,各種イオン濃度を数段階に変化させたものを調整した。ウシの抜去歯から得た試片を用いて,口腔内環境をシミュレートしたpHサイクルを設定して脱灰させるとともに,このサイクルにS-PRGフィラー抽出液を応用し,その際に生じる歯質の変化について検討した。その形態的変化および歯質の微量元素検出には,フィールドエミッション走査電子顕微鏡および付属のEnergy Dispersive Spectroscopy(EDS)を用い,これらを確認した。しかし,超微小硬さ測定装置を用いて歯質の弾性率の変化を検討することに関しては,機器の整備とともに研究の進捗状況として当初の予定よりも若干遅延しているのが現状である。しかし,本研究の目的達成に関しては,3年間という研究機関を踏まえても,問題はないものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗に関しては,おおむね当初の予定通りの状況ではあるものの,研究成果の社会への公表等を急ぐ必要がある。そのために,研究協力者への負担はあるかとは思われるが,データの細部にわたる分析も研究代表者とともに行うことにって,研究結果の新規性を公表する場を積極的に持ちたいと考えている。 今後の研究の進捗に関しては,測定機器の整備も順調に進んでいるところから,特に問題はない。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の結果を踏まえ,超微小かたさ測定に関しては,その測定を鋭意進める予定である。また,新たに光干渉断層装置(Optical Coherence Tomography, OCT)を石灰化を検出する新たなモダリティーとして超音波透過法の成績との比較,検討を行うことで歯質の再石灰化と徐放イオンとの関係を明らかにする。OCTは,光学干渉計を応用した技術で光源が生体に為害性を持たない近赤外光を用い,非侵襲的に生体表面近くの精密断層像を得ることを可能とする方法で,次世代診断用機器として期待されているものである。 さらに,広く工業界あるいは医学領域でも使用されている超音波透過法を用いて,歯質における超音波特性を非破壊的に測定する。本法は,音速の変化を指標として再石灰化能を評価する。この研究遂行のために,ウシ歯を購入するとともに,測定に用いる治具等を購入する。また,成果発表のために歯科保存学会への出席のための旅費を使用する。
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