研究課題/領域番号 |
23592816
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
富山 潔 神奈川歯科大学, 歯学部, 講師 (90237131)
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研究分担者 |
寺中 敏夫 神奈川歯科大学, 歯学部, 教授 (60104460)
向井 義晴 神奈川歯科大学, 歯学部, 准教授 (40247317)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | biofilm / dentin / acid |
研究概要 |
平成23年度, 新しいモデルを用い, 抗菌薬がマイクロコスムバイオフォルムの代謝活性におよぼす影響とその後の回復を検討する予定であった(実験1). またそれ以外に, バイオフォルムによる表層下脱灰病巣モデルを開発した(実験2). 材料および方法)象牙質およびガラス試片上にバイオフィルムを作製した. 培養液にMcBain 2005(0.2%スクロース含有)を用い,連続嫌気培養を8日間行なった.実験1では, 0.05%および0.2%グルコン酸クロルヘキシジン (CHX) 適用時のバイオフィルムの代謝活性および細菌叢の変化を観察した. 実験2では, 実験群を(1)ガラス群(G),(2)対照群(F非含有: 0F),(3)0.2 ppm F含有培養液群(0.2F),(4)2.5 ppm F含有培養液群(2.5F)の4群とし, バイオフィルムの代謝活性を比較し,象牙質試片のミネラル喪失量(IML)を測定した. 結果)実験1:異なる基質上のpH値間には約1ユニットの差が認められ, ガラス上のバイオフィルムの酸産生量と総細菌数は, 期間の延長とともに増加したが, 象牙質上ではほぼ一定していた. CHX処理後, 象牙質上に形成されたバイオフィルムのpHは, ガラス上とは異なり, CHX非処理群に比較して低く, pHの回復も遅かった. また, CHX処理した象牙質上の細菌叢は多様で, 総細菌数はガラス上において効果的に減少した. 実験2:F群では,明瞭な表層を伴った表層下脱灰病巣の形成が確認された.各群の平均IML(vol%×μm)は,他群に比較して0F群が有意に大きかった. 考察)これらの結果から, 細菌の代謝や多様性は基質に影響を受け, CHX処理は細菌の活性化に影響を及ぼすことがわかった. また, バイオフィルム表層下脱灰病巣モデルは, 初期う蝕の治療法の開発に有用であること可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究目的の達成度は, 平成23年度の目的としては100%であり, さらにそれ以上の研究成果を達成することができた. 本研究の全体としての大きな目的は, "抗菌薬, う蝕予防を目的とした歯科材料がマイクロコスムの代謝活性および細菌叢の多様性にどのように影響を与えるか"である。これらのう蝕予防措置を行なう場合, 臨床現場では, (1)健全歯質のう蝕予防, (2)初期う蝕病巣(表層下脱灰病巣)の進行抑制または再石灰化, (3)修復歯の二次う蝕の抑制 の3つの状況が考えられ, いずれも非常に重要である. 今年度, 我々は,抗菌薬がマイクロコスムの代謝活性に及ぼす影響とその後のバイオフィルムの回復の検討をまずは, 健全歯質上に形成されたマイクロコスムバイオフィルムを用いて行なう予定であり,その実験結果を得た. そこで次の段階として, 本文中で述べたように, 初期う蝕病巣の治療が重要であるという観点から(表層下脱灰病巣を完全に再石灰化させるような治療法は, 現在までに報告されていない), 初期う蝕病巣上に形成されたバイオフィルムに抗菌薬を適用した場合, バイオフィルムの代謝活性や, その直下の表層下脱灰病巣に対してどのような影響を与えるかを検討することとした. しかしながら, 表層下脱灰病巣を化学的溶液を用いるか, あるいは口腔内で形成する方法は報告されているものの, 前者は病巣の形成に細菌が関与していない点, 後者は個人差が生じたり, 1被験者のみに限ってみても, 月日, 時間などの違いにより病巣の大きさなどを全く統一できない, 様々な関連因子を含みすぎる, などの理由により, 最適な実験方法が存在しなかった. そこで今回, 口腔内唾液を用いた全ての細菌種が含まれる口腔内バイオフィルムにより, 一定の大きさの表層下脱灰病巣モデルを開発できるかどうかを検討し, その開発に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は, 研究目的を"歯科充填材料がマイクロコスムバイオフィルムによる歯質の脱灰および, その代謝活性に及ぼす影響"に当てている. この研究の目的は, 日常臨床において, う蝕治療を行なった充填部位周囲に生じやすい二次カリエスを抑制することが目的である. このような二次カリエスが発生を繰り返すことにより, 残存歯質が徐々に減少し, 早期に歯牙を喪失することにつながる. 理想は, 充填した材料が, 充填材上あるいは充填材付近の健全歯質に形成されたバイオフィルムに対して静菌あるいは殺菌作用を持続的に示すことである. しかしながら, 現在までに, そのような条件を十分に満たす材料は報告されていない. この研究は, High through putモデルである本モデルを用いて, 多種多様な予防充填材料や, 予防法を組み合わせた新法の効果を検討することになるが, 充填法のみならず, 培養期間, 糖代謝に用いる栄養分の種類, 濃度など, 様々な条件設定を用いて検討することになる. また昨年度, バイオフィルムにより病巣を形成することが可能な, 新しいin vitro 表層下脱灰病巣モデルを開発することができたため, このモデルを用いて, 充填した部位に近接した表層下脱灰病巣に, う蝕予防充填材料が与える影響についても検討していくつもりである.
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次年度の研究費の使用計画 |
ウシ抜去歯:100, 乳酸測定キット(50試料ぶん)×10:100, TMRフィルム(Konica Glass Plate 30枚入り):100, 現像液 Konica CDH - 100:50, 定着液 Konica CFL - X:50, TSA 血液寒天培地:100,緬羊脱線維血液100mL 20本:118, 自立型テストチューブ 1200本:60, GCエグザハイフレックス(試料固定用)3箱:15, アズノール滅菌シャーレGD90-15 90×15:15, アズワンシリンジフィルター4564T:19, Difco Bacto Peptone 500g:15, BBL Trypticase Peptone 454g 3本:15, Sigma M2378 ムチン豚胃由来100g:18, 成果発表:200合計:975
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