研究課題/領域番号 |
23592816
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
富山 潔 神奈川歯科大学, 歯学部, 講師 (90237131)
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研究分担者 |
寺中 敏夫 神奈川歯科大学, 歯学部, 教授 (60104460)
向井 義晴 神奈川歯科大学, 歯学部, 准教授 (40247317)
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キーワード | biofilm / dentin / acid / polymicrobial / antimicrobial agent |
研究概要 |
平成24年度は, 歯科疾患に対して予防的な効果を発揮する予防材料または抗菌薬がマイクロコスムバイオフィルムによる歯質の脱灰および代謝活性に及ぼす影響について検討する予定であった. “初期齲蝕(表層下脱灰)病巣モデルの確立” に関しては, IADR Pan European Region 2012(ヘルシンキ)においても報告を行った. この研究において, 口腔内と同等の多菌種で形成されたバイオフィルムを口腔外で形成し, 安定した初期齲蝕を形成することに成功した. この成果は初期齲蝕の新しい治療法の開発に貢献できると推察する. 次にS-PRG含有歯磨材がバイオフィルムに与える影響について研究を行ない, 2012年度秋季日本歯科保存学会(広島)において報告した. その後, 研究を進展させ, 2013年7月, The 60th Congress of the European Organization of Caries Research (Liverpool, UK)において発表する予定である. 本実験では, 粒径1μmのSPRGフィラーを5%含有する歯磨材および950ppmF含有歯磨材の2種類を実験に使用し, 培養3日目のバイオフィルムに対して5分間の処理を加えた結果, 950ppmF含有歯磨材に比較し, 生菌数が抑制される傾向を示した. TMLによる分析結果は, 低いミネラル喪失量および病巣深さを示した. 天然の渋柿由来成分であるカキタンニンのバイオフィルムに対する抗菌効果を検討した.タンニンは,レンサ球菌,特にS. mutansの増殖を抑制することが報告されている.カキタンニンを24時間培養バイオフィルムに5分間作用させたところ, 濃度依存的に生菌数を抑制することが明らかとなったため, 2013年度春季日本歯科保存学会(福岡)において発表する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究目的の達成度は, 100%であり, さらにそれ以上の研究成果をあげることができた. 本研究の究極の目的は, 検討されることの少なかった, 口腔内と同程度の多菌種を含むマイクロコスムバイオフィルムバイオフィルムの特徴を明らかにし, さらに, 健康な口腔内におけるバイオフィルムおよび病的なバイオフィルムの特徴を分析し, 理論的な口腔内病変の治療法を確立することである. 臨床が行われる現場においては, 健全歯質や治療部位の脱灰抑制を達成することは, 高齢者の残存歯数を増加させることに繋がるはずであり, 高齢化社会において, 高齢者の健康増進の一助となるはずである. 脱灰抑制に優れた治療法の確率といった点に関して研究を続けた結果, S-PRG (Surface Prereacted Glassionomer) フィラー含有歯磨剤の脱灰抑制能は際立っていることを発見することができた. 本剤は, マイクロコスムバイオフィルムの生菌数を抑制することもできるが, それ以上に, バイオフィルムが産生する酸による脱灰を防ぐことができた. これは, フッ化物イオンの酸産生菌の代謝阻害をフィラーから溶出される陽イオンが, 増長させている可能性があるものと思われる. 東北大学の高橋らは, 二価の陽イオンが, フッ化物イオンによる菌代謝阻害を増長させることを報告している. さらに我々は, 副作用などの問題点も考慮し, 人工材料だけでなく, 抗菌効果を有する天然由来成分を研究することの意義を考えた結果, カキ由来のタンニン酸の効果に注目した. マイクロコスムバイオフィルムへの効果について検討した結果, 多菌種を含むバイオフィルムに対してでさえ, 優れた抗菌効果を発現することを発見した. これは, 当初の本実験の計画にはなかったことであり, 本研究の成果をさらに発展させることに繋がるものと確信する.
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今後の研究の推進方策 |
この研究の重要なテーマは, 研究計画調書にもあるように, ①抗菌薬がマイクロコスムの代謝活性に及ぼす影響とその後のバイオフィルムの回復の検討, ②修復材料の違いおよび歯質の違いがマイクロコスムの代謝活性, 口腔内細菌叢に及ぼす影響, ③pH緩衝下と非緩衝下のマイクロコスムの代謝活性の違いおよび口腔内細菌叢の違いへの影響, の三つである. 本研究の結果は, 臨床における歯科疾患の予防処置としての最先端の治療法としてフィードバックできることが望ましい. その意味において, 口腔内すべての菌種を含んだバイオフィルムを口腔外で再現し, その性質を見極める研究は重要である. 我々はすでに, バイオフォルムが形成される固相の性質の違いにより, バイオフィルムの性質が変化する(おそらく細菌叢も)ことをつきとめており, この性質を利用して, 口腔外で多菌種を用いて形成する初期齲蝕病巣モデルを発明した. すでに述べたように, 現在までに、様々な抗菌薬を用いてバイオフィルムの病原性を抑制する(口腔内なので滅菌ではなく、静菌作用を持続させることを目標としている)ことを目的に様々な抗菌薬の評価を行ってきた. S – PRG (Surface Prereacted Glassionomer) フィラーを含有する歯磨剤およびシブガキから抽出したタンニン酸の多菌種含有バイオフィルムであるマイクロコスムバイオフィルムに対する効果が優れていることを確認できたのは大きな成果であった. カキタンニンは, 天然由来成分であるにも関わらず, 0.05% グルコン酸クロルヘキシジン(日本国内で許されている濃度)に比較して, 高い抗菌効果を示した. 今後, これらの,抗菌材に絞り, 共晶点レーザー顕微鏡による観察や, 菌叢の分析も加え, さらに深く, 菌代謝に対する作用メカニズムを分析する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
乳酸測定キット : 100, 緬羊脱繊維血液100 ml 20本 : 118, 自立型テストチューブ : 100, アズノール滅菌シャーレ : 15, アズワンシリンジフィルター4564T : 19, ムチン豚由来100g : 18, 成果発表 : 200, 研究成果投稿費 : 300 合計 : 970
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