最終年度である本年度は、生体In vivoパッチクランプ法のプローブ(パッチ電極)の開発の継続および記録法の確立を目指すとともに、in vivo標本を安定させるためのin vivo標本作製法の改良を行った。パッチ電極は、テーパー形状、先端形状および先端径について種々試作したものの、使用に耐えうるギガオームシールを確認できたものは得られなかった。また、目的のニューロンまで到達するための加圧法についても改善すべき問題点が多く残った。一方、試作したガラス電極の一部は、細胞外記録では十分使用可能であったことから、上行性賦活系の主要構成要素であり神経細胞が脳幹網様体よりも密在している視床からのニューロン活動の記録を試みた。脳幹部および視床の細胞構築学的構造がほぼ明らかになっているウサギ(日本白色種、体重2.0~2.3kg)をモデル動物として用いた。麻酔下で脳定位固定装置に固定したモデル動物の頭頂骨を一部削除して大脳皮質を露出し、これより視床への電極の刺入とニューロン活動の記録を行った。ウサギ9羽の視床後内側腹側核(VPM)から98ニューロンを記録した。VPMニューロンの90%(89ニューロン)が咬合・咀嚼に関連する機械刺激に応答した。自発放電を伴うVPM機械受容ニューロンは少なく、また、自発放電を伴うニューロンはすべて深部受容に関連を示した。これらのニューロンは、麻酔深度の影響を強く受けた。以上の結果から、ウサギVPMから記録されたニューロン活動は、脳幹網様体に存在する意識レベルに関与する神経細胞活動と関連しながら、咀嚼・咬合による感覚情報が高次脳機能である精神活動に影響を及ぼすメカニズムの一端を担っていることが示唆された。
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