研究概要 |
頭頚部腫瘍治療後の患者の口腔内は、顎骨切除、粘膜の瘢痕化や脆弱化、放射線治療による唾液量減少、などにより義歯装着に対して非常に不利な環境になりやすく、義歯安定剤使用を余儀なくされる場合もある。しかし、強力な安定剤は除去が困難であり、義歯や口腔内の残留物は粘膜の炎症を引きおこす原因となる。従って、口腔粘膜への痛みを緩和し、接着力を有する義歯の開発が求められている。一方、頭頚部腫瘍・外傷・先天的欠損による顎骨・顔面欠損は、咀嚼・発音・嚥下などの機能障害ならびに審美障害を生じ、患者のQOLに多大な影響を及ぼす。顔面エピテーゼはシリコーンエラストマーなどで製作され、日本では接着剤が多く用いられているがアレルギー、正確な位置へのエピテーゼ装着困難、付着した接着剤除去困難などの欠点がある。そこで、新たなエピテーゼ維持方法として、シリコーンが低アレルギー性であることに着目し、接着性を有する粘着シリコーン開発を進めている。本研究の目的は、義歯床粘膜面応用に対する粘着シリコーンの所要条件検索である。引張接着強度試験:義歯床レジン/粘着シリコーンサンプルにおいて、粘着シリコーン4mmグループは8,12mmグループよりも優位に大きいpeak load(N)を示した。しかしながら、4,8mmにおいて、いくつかのサンプルでレジンとシリコーンの境界面において剥離がみられた。今後、義歯床レジン重合程度とシリコーン填入のタイミングについての最適時期、粘着シリコーンの最適な厚さを検索し、境界面での剥離防止。また、粘着シリコーンの劣化、唾液存在下における機械的性質についての検討を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
1.フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による分析、 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析2.1)前年度の実験から、いくつかのサンプルにおいて、引張接着強度試験後にレジンとシリコーンの境界面において剥離がみられた事より、粘着シリコーン:キャタリスト/ベースシリコーン混和比 (CBR)1/40,1/50,1/60について、最適なシリコーンの厚みの検索が必要である。2) 義歯床レジンの(1)初期硬化前(2)初期硬化後(3)完全硬化後の群に分けて、義歯床レジン重合程度とシリコーン填入のタイミングについて最適時期を検索。3) 1)2)より、義歯床用レジン, 最適厚みを有する粘着シリコーンのサンプルについて、義歯床用レジン:加熱重合型(アクロン,GC),マイクロ波重合型(アクロンMC,GC)粘着シリコーン:キャタリスト/ベースシリコーン混和比(CBR)1/40,1/50,1/60これらの組み合わせからなるサンプルについて、引張接着強度・圧縮強度などを測定し、材料の最適条件、所要条件を検索する。3.これらの結果より絞られた、最適な組み合わせの候補2タイプについて、以下の試験を行う。1) 劣化についての検討、走査型電子顕微鏡により表面構造観察(吸水による影響(水中浸漬試験)、エタノールやアルカリによる影響(薬液浸漬試験)、機械的ストレスによる影響(繰り返し負荷試験)、口腔内の温度変化による影響(サーマルサイクリング試験)2) 唾液存在下における機械的性質についての検討(引張接着試験、曲げ・圧縮強度の分析)
|