研究課題/領域番号 |
23592840
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 隆志 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (20198211)
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研究分担者 |
若林 一道 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (50432547)
矢谷 博文 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (80174530)
関野 徹 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (20226658)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ジルコニア / ポーラスサーフェス / 多孔質体 |
研究概要 |
本研究の最終的な目的は、ナノ複合化により低温劣化を抑制したジルコニア系セラミックスを使用し、フレームの下部は緻密な構造であるが前装部にはポーラス構造を付与した2層構造のクラウン・ブリッジ用材料を開発することである。2011年度においては、低温劣化を抑制したジルコニア材料の開発およびポーラス構造を付与したジルコニア材料についてその物性と陶材の焼付強さについて検討を行った。低温劣化を抑制するために、通常のイットリア系ジルコニア(Y-TZP)にシリカを0.2%および0.4%添加した材料を試作し、これらを焼結させてその物性を測定した。さらに、この試作材料を用いて臨床形態のコーピングを製作し、200℃2気圧の水中に保存する加速試験を行い、低温劣化について検討を行った。その結果、シリカを含有させてもジルコニアの物性には変化がないこと、さらに加速試験を行うと従来のY-TZPではコーピングに欠陥が出現し破折抵抗も有意に低下するが、シリカ含有Y-TZPでは肉眼的に欠陥はみられず、加速試験後も破折抵抗には有意な変化がみられないことが明らかとなり、シリカ含有Y-TZPは低温劣化しにくい材料であることが示された。Y-TZPにポーラス構造を付与した材料に関しては、まず従来のY-TZPに2種の異なる造孔材を使用して、試作のポーラスY-TZPを製作し、ポーラス構造が物性や焼き付け強さに及ぼす影響を検討した。この2種のY-TZPの開放気孔率は13%および9%であった。ただし、歯科のクラウンやブリッジで最も大きな問題となる破壊靭性(表面に気孔が存在するため参考値)は強度ほど大きな低下はみられなかった。また、曲げ試験により測定したポーラス構造をもつY-TZPと陶材の焼付強さは通常のY-TZPと同様であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、ナノ複合化により低温劣化を抑制したジルコニア系セラミックスを使用し、フレームの下部は緻密な構造であるが前装部には有孔構造を付与した2層構造の材料を開発することである。2011年度では、まず低温劣化を抑制したジルコニア材料の開発することを目標とした。当初はセリア系ジルコニアにアルミナを混合させてコンポジット材料とすることを試みた。この材料は、低温劣化しにくい性質ももつセリア系ジルコニアの特徴があらわれたが、一般的なイットリア系ジルコニア(Y-TZP)に比較して透過性が低く、クラウン・ブリッジ用フレーム材料としては審美性に問題があった。ところが、シリカ添加Y-TZPは通常のY-TZPと変わらない物性と透過性をもちCAD/CAMシステムで加工できることから、クラウン・ブリッジのフレームに適した材料であるものと思われ。シリカ添加Y-TZPは、加速試験によって低温劣化しにくい性質をもつことが示されたことから、ポーラス構造の基本となる材料の開発に関しては目標を達成できたと考えられる。次に2種の造孔材を使用して通常のY-TZPにポーラス構造を付与することを試みた。これは、クラウン・ブリッジのフレームに陶材を焼き付けるのに最適な孔の直径や気孔率を検討するために行うものである。2011年度に作製した2種の試作材料では、開放気孔率が9%、および13%になり、孔の大きさや形状も異なっていた。曲げ試験による陶材の焼き付け強さは、試作のポーラスY-TZPと通常のY-TZPに相違はなく、ポーラス構造の利点が明瞭ではなかった。このように最適な有孔構造に関しては、目標が完全に達成されたわけではなく、さらなる検討が必要と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ポーラス構造をもつ試作のY-TZPを切断し、SEMで観察すると孔の中に陶材が入りこんでいることが確認された。この結果は、Y-TZPと陶材の焼き付け強さの向上に役立つものと推察されるが、曲げ試験による焼き付け強さは、通常のY-TZPとポーラスY-TZPの間に有意差はみられなかった。陶材の焼き付け強さを測定するのには、曲げ試験とせん断試験が使用される。ポーラス構造の有効性が、曲げ試験では現れにくい可能性があるため、今後はせん断試験を用いた陶材の焼き付け強さについても検討を行う予定である。さらに、ポーラス構造の基本となる孔の大きさ、形状、気孔率について最適化をはかる必要がある。現在は、通常のY-TZPを使用してポーラスY-TZPの試料を製作しているが、造孔の条件がある程度決まれば、次にシリカ含有Y-TZPに同様の条件でポーラス構造を付与して試料を製作する予定である。シリカ含有Y-TZPは、低温劣化が抑制されている半面、耐水性に優れるため陶材のぬれ性が問題となる。予備実験で、使用する陶材や含有するシリカの割合が陶材の焼き付け強さに影響を及ぼすことが示されており、これらを考慮して陶材の焼き付け強さを向上させる必要がある。シリカ含有Y-TZPの表面処理についても検討が必要であるものと思われる。ポーラス構造をもつシリカ含有Y-TZPにおいて、陶材焼き付けが確実に行えるようになれば、最後に緻密構造とポーラス構造をもつ2層構造のブロックの製作に取り組む予定である。このブロックを使用して、歯科用CAD/CAMシステムによる切削加工を行い、快削性や加工精度の検証を行うことになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主にセラミックス試料の製作に必要な原材料と加工、そして曲げ強度や破壊靭性などの試験に使用する予定である。今回の実験で使用するジルコニア系セラミックスのような高強度のセラミックス材料の加工や実験には高価で特殊な装置が必要である。しかしながら、そのような特殊な装置は保有していないため、大阪府立産業技術研究所(産技研)の設備を使用している。そのため、原材料の購入費に加えて産技研の装置使用料が必要となる。研究成果は学会で発表するため、これに伴う資料製作費や旅費も支出しなければならない。2011年度は、日本歯科審美学会(7月、札幌)、日本歯科医学会(11月、大阪)での学会発表を予定している。また、ジルコニア系セラミックスに関する研究打ち合わせや最新の情報を関連学会で収集するため、こちらにも旅費が必要となる。さらに、研究成果に基づいて英文論文を執筆するため、英文校正料や投稿料も支出する予定である。
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