研究課題/領域番号 |
23592840
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 隆志 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (20198211)
|
研究分担者 |
若林 一道 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (50432547)
矢谷 博文 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (80174530)
関野 徹 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (20226658)
|
キーワード | ジルコニア / ポーラスサーフェス / 多孔質体 |
研究概要 |
本研究の最終的な目的は、複合化により物性を向上させたジルコニアセラミックスを使用し、フレームの下部は緻密な構造であるが上部(前装部)にはポーラス構造を付与した2層構造のクラウン・ブリッジフレーム用材料を開発することである。2012年度は、ポーラス構造を付与したジルコニアセラミックスについてその物性と陶材の焼付強さについて検討を行った。 ポーラス構造を付与したジルコニアセラミックスに関して、まず市販のイットリア系ジルコニア(Y-TZP)に2種の異なる造孔材を使用して、試作のポーラスY-TZPを製作し、ポーラス構造が物性や焼き付け強さに及ぼす影響を検討した。コントロールには緻密質のY-TZPを用いた。2種の試作ポーラスY-TZPの開放気孔率は9%および13%であり、気孔の形状も異なっていた。緻密質Y-TZPの曲げ強度は1200MPa であったが、ポーラスY-TZPの強度は220 -300MPaと低かった。ところが、Y-TZPに陶材を焼き付けた積層Y-TZPでは、ポーラスY-TZPの強度(360MPa)は緻密質Y-TZPの30-40% (132-156MPa) であり、単体の場合ほど大きな相違はなかった。Y-TZP板に円柱状に陶材を焼き付け、剪断試験により焼き付け強度を求めたところ、緻密質のY-TZPでは焼き付け強度は27.3MPaであったが、ポーラスY-TZPでは33.6-35.1MPaと緻密質よりも23-28%大きな値となった。SEM観察でも、ポーラスな部分に陶材が嵌入する像が観察され、ポーラス構造は陶材の焼き付け強度の向上に有効であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、複合化により物性を向上させたジルコニアセラミックスを使用し、ポーラス/緻密の2層構造をもつ歯科用セラミックス材料を開発することである。2012年度には、ポーラス構造がジルコニアセラミックスの物性や陶材との焼き付け強度の及ぼす影響を検討した。その結果、ポーラス構造を付与するとジルコニアの物性を低下させるが、陶材との焼き付け強度は向上することが示された。ポーラス構造付与による物性の低下は、当初の予想よりも大きかった。また、造孔剤が異なると、ポーラス構造の形状や開放気孔率が相違し、物性や焼き付け強度が異なるのとが明らかになり、造孔剤の最適化が必要であることが示された。 これらの結果から、ポーラスなジルコニアは陶材との焼き付け強度が高く、クラウンやブリッジのフレーム上部に有効な材料であることが明らかとなった。しかしながら、ポーラスなジルコニアは強度が低く、緻密質のジルコニアによる補強が不可欠であることが示された。そこでポーラス/緻密質の2層構造をもつジルコニアブロックを試作して、CAD/CAMによる加工が行えるかどうか、さらに製作したクラウンにおいて、従来の緻密構造のみのジルコニアよりも陶材の破折や剥離が少ないかどうかを検討することが必要であるものと思われた。
|
今後の研究の推進方策 |
ポーラス/緻密質の2層構造をもつジルコニアブロックを試作して、CAD/CAMによる切削に関する検討をまず行う。このブロックは緻密質のY-TZPを焼結したものの上部にポーラスなY-TZPを積層させて製作するもので、完全焼結体を歯科用CAD/CAM システムにより切削加工する。ポーラスなY-TZPであっても、今回の試作品は開放気孔率が9-13%にすぎず、従来の緻密質のY-TZPと同様に加工することが可能であると考えられるが、緻密層とポーラス層の厚み、このブロックに適したフレームデザインなどを検討する必要がある。 さらに、シリカを含有させて物性を向上させたY-TZPについても、同様にポーラスな試料を製作し、物性を確認した後にポーラス/緻密の2層構造ブロックを切削加工する。 2層構造のY-TZPで製作したクラウンの破折抵抗についても検討を行う必要がある。従来の緻密質Y-TZPフレームおよび試作の2層構造のY-TZPフレームに陶材を焼き付けてクラウンを製作し、破壊試験を行い、破折にいたる荷重を比較検討する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、まず2層構造のブロックを製作するのに必要な材料の加工費に使用する。また、Y-TZPフレームをCAD/CAMにより切削加工する際にも必要となる。今回の実験で使用するジルコニア系セラミックスのような高強度のセラミックス材料の加工や実験にはCAD/CAMを含む高価で特殊な装置が必要である。しかしながら、そのような特殊な装置を保有していないため、大阪府立産業技術研究所(産技研)の設備を使用したり、歯科技工所に切削加工を依頼することになる。そのため、原材料の購入費に加えて産技研の装置使用料や歯科技工所への加工料支払いが必要となる。 研究成果は学会で発表するため、これに伴う資料製作費や旅費も支出しなければならない。2013年度は、日本歯科CAD/CAM学会(4月、東京)、日本歯科審美学会(7月、東京)での発表を予定している。また、ジルコニア系セラミックスに関する研究打ち合わせや最新の情報を関連学会で収集するため、こちらにも旅費が必要となる。さらに、研究成果に基づいて英文論文を執筆するため、英文校正料や投稿料も支出する予定である。
|