研究課題
近年,咬合崩壊した症例に対して,暫間インプラントによる早期の咬合回復を図ることが,重度歯周病に罹患した歯列の保存ならびに顎運動の異常習癖の改善に対して,有効であることが報告されてきている。これらのインプラントは,使用目的が暫間的であるためか,生体組織との界面観察についての報告は極めて少なく不明な点が多い。暫間インプラント/生体組織間を透過電子顕微鏡下で観察するためには,界面にダメージを与えずかつ目的箇所を明確にした試料を作製する必要がある。そこで本研究では,ラットの頸骨にチタン合金製の暫間インプラントを埋入して得られた標本を,イオン研磨法で断面試料を作製し,電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した後,Focused Ion Beam法を用いて,目的箇所を薄膜加工し,電子顕微鏡下で観察することによって,接合界面での様相を明らかとすることを目的とした。前年度において作製した試料を,FE-SEMを用いて高分解能観察を行った結果,チタニウム合金(Ti6Al4V)製のインプラントにおいてもインプラントと骨の間に直接界面を有し,純チタン製インプラントと同等のosseointegrationと称されている軟組織の介在のない接合界面を有していることが明らかとなった。そこでチタニウム合金製インプラントの表層構造をエネルギ―分散型X線分析(EDS)およびX線光電子分光(XPS)を使用して分析した結果,陽極酸化を施したチタニウム合金製の暫間インプラントの酸化被膜層が,表層と中間層で均質な構造ではないことが明らかとなった。骨との接合界面である最表層は,アルミならびにバナジウムは検出限界未満である一方で,Tiを多く含む層となっており,アルミならびにバナジウムは最表層には存在せず,中間層に多く存在することが明らかとなった。このことが,本研究から得られた結果の原因であると推察された。