研究課題/領域番号 |
23592897
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
齋藤 設雄 岩手医科大学, 歯学部, 講師 (70137537)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | チタンインプラント / 歯根膜 / 金蒸着 / アルカンチオール |
研究概要 |
歯根膜付きインプラントの創製を目的に、金属チタンにタンパク質を固定化する基盤として、チタン基板へのアルカンチオールの結合を試み、結合に及ぼす金属チタンへの金蒸着の効果を検討した。 サンドブラストにより粗面処理を行ったチタン板を、アセトン、硝酸、蒸留水にて超音波洗浄後、イオンコーター(10 mA, 10 Pa)にて金蒸着を施した。一方、コントロールとして、サンドブラスト後金蒸着を施さない未蒸着チタン板を使用した。未蒸着および金蒸着済みのチタン板とこれらを2 mMアルカンチオール(12-Mercaptododecanoic acid)エタノール溶液に2時間浸漬後、エタノール、蒸留水にて洗浄、乾燥させたものを表面分析(XPS, FTIR)用試料とした。なお、本研究で使用したアルカンチオールはアルキル直鎖の両末端にSH基とCOOH基を有し、同溶液による処理は基板にタンパク質を固定するための結合層を形成させることを意図している。 XPS分析ではアルカンチオール浸漬した未蒸着チタン表面からは硫黄(S 2p)が検出されず、C 1sスペクトルも浸漬前と差が認められなかったことから、アルカンチオールが結合しなかったと考えられる。一方、アルカンチオール浸漬した金蒸着チタン板からは、Au-Sに由来するS 2pピーク(162 eV)が検出され、C 1sスペクトルでもCOOHに由来するピーク(289.5 eV)が検出された。また、FTIR分析から脂肪族カルボン酸の可能性が示唆され、COOH基を末端に持つアルカンチオールと矛盾しないことを確認した。以上の結果から、チタン基板にタンパク質との結合官能基を持つアルカンチオールの層を形成するためには、金蒸着は有効な処理であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歯根膜付きインプラントを創製するにあたって、以下の3つの項目を解決することが必要と考えている。1.チタン表面に歯根膜を誘導する強固なペプチド接着層を形成する。2.歯根膜を垂直方向に伸展させるため細胞外基質マトリックス層を形成する。3.歯根膜細胞を細胞外基質マトリックス層に播種し、増殖させる。チタンの表面処理は歯根膜付きインプラント創製の根幹をなすもので、項目1のペプチド接着層を形成する重要な工程と考えている。金蒸着による被覆処理を行うため、当初、マグネトロンスパッタ装置として低価格の装置(MSP-mini)を購入する予定でいた。購入前に予備実験のため、大学の現有設備であるイオンスパッタ装置を用いて作製した試料を分析したところ、当初予測していた結果とは異なる分析結果が得られた(微量の酸素が分析結果に影響)。このイオンスパッタ装置は購入予定のMSP-miniと類似の機構を有していることから、上位機種(MSP-20UM)への変更を行った。当機種はチャンバー内の空気を減圧除去後、アルゴンガスを導入する機能を備えており、酸素の影響を極力少なくした高品質の蒸着膜の作製が可能である。予備実験の結果から、このような判断を下すのに時間を要したため購入が遅れ,研究に遅れを生じた。
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今後の研究の推進方策 |
歯根膜付きチタンインプラントの創製に向けて、金属チタンの前処理、ペプチド結合接着層の形成、細胞外基質マトリックス層の形成を行い、表面分析(XPS, EPMA, FTIR etc.)、接着強度試験(引張せん断, 剥離せん断etc.)、形態観察(SEM, SPM, 光顕etc.)をもとに、それぞれの形成層について評価を加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の助成金が生じた原因は、設備備品の主要機器購入の遅れによる研究の遅れによるもので、実験の進行とともに解消できると考えている。次年度以降の研究費の内訳は、実験用器材のほか論文投稿ならびに校正料、出張旅費等を予定している。
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