研究課題/領域番号 |
23592897
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
齋藤 設雄 岩手医科大学, 歯学部, 講師 (70137537)
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キーワード | チタンインプラント / 歯根膜 / 金蒸着 / アルカンチオール / レーザー表面加工 |
研究概要 |
インプラント表面に歯根膜を創製するに際し、チタン表面にタンパク質吸着および細胞を接着させることを目的に、これまで金蒸着後にアルカンチオールによる表面処理を行ってきた。一方、インプラント体の表面形状は細胞の接着、伸展、配列に大きく影響するばかりでなく、細胞の分化、発現形態に重要な役割を果たすといわれている。そこで、インプラント体の表面形態を調節することを視野に、レーザー加工機を用いてチタン板を種々の条件下で表面加工したのち、形成された微細構造についてパターンの周期、深さなどを数値化することを試みた。表面加工にはNd-YVO4レーザーマーカーを使用し、加工条件は掃引周波数(7500,1500,30000Hz)とマーキング速度(50,100,200mm/s)を変え、マーキングの繰り返し回数は20回とした。レーザー加工表面の観察にはデジタル顕微鏡を用いた。加工表面の深さ方向の形状は、加工後エポキシ樹脂に試料を包埋し、ダイヤモンドカッターにて薄切、研磨したのち断面を金属顕微鏡にて観察した。加工表面の微細構造パターンの周期性や方向は、撮影したデジタル画像を画像解析ソフトによりフーリエ変換した画像(FFT像)から評価した。 レーザー加工により横方向あるいは斜め方向に走行する縞状のパターンが観察された。同パターンのFFT像から中央部に2つの輝部が観察され、これらを結ぶ方向が縞状パターンの法線方向(周期性の方向)に対応していた。また、FFT像から算出したパターンの周期は実測による溝幅に対応していた。掃印周波数の増加、マーキング速度の減少により縞状パターンの溝幅、深さとも増加することがわかった。以上の結果から、レーザー表面加工により形成されるパターンの周期性をFFT像に基づいて定量的に予測することが可能であり、同手法は意図するパターンを作製するレーザー加工条件の探索にも応用が可能と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歯根膜付きインプラントを創製するうえで以下の3項目について解決する必要がある。 1.チタン表面に歯根膜を誘導する強固なペプチド層を形成する。 2.インプラント表面で歯根膜を垂直方向に伸展させるため、細胞外基質マトリックス(ECM)層を形成する。 3.歯根膜細胞をECMに播種し増殖させる。 項目1については、チタン表面に金蒸着を施し貴金属化させたのちアルカンチオール(HS-C11-COOH)で処理することにより、TiO2-Au-S-C11-COOHの結合層の生成が確認され、ペプチド結合によるタンパク質の固定の可能性が示唆された。項目2については、細胞の伸展方向を制御するうえで重要なインプラント表面形状の調節にレーザー光による表面加工の有効性が示唆された。項目1、2のいずれの目的についても、材料設計の観点からその可能性は示唆されているものの、臨床応用するうえでの生物学的な側面からの検討が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、歯根膜付きインプラントの創製に必要なインプラント体表面の性状ならびに形状の材料学的な観点から材料設計を行ってきた。この設計の良否は最終的には動物実験を含む臨床試験によって決定されるが、その前段としてin vitroでの細胞実験が必要と考えられる。そこで、今後、生物学的側面からの実験を加えるとともに、インプラント表面の材料学的評価(表面分析、強度試験、形態観察等)についても継続して実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた原因として、本年度、生物学的試験(細胞実験等)を行わなかったことによるものである。次年度では当試験を実施することで本年度分も含めて消化する予定である。また、次年度ではこのほかに実験用器材の購入ならびに論文投稿料、校正料、出張旅費等の出費を予定している。
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