研究課題/領域番号 |
23592925
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
茂木 勝美 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (20335805)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | シェーグレン症候群 / 唾液腺 / アクアポリン |
研究概要 |
シェーグレン症候群は難治性の自己免疫疾患であり、現在までに根治的な治療法は開発されていない。本疾患の唾液腺においては、炎症性細胞浸潤に伴う腺房構造の萎縮、破壊が生じる一方で導管構造は残存するという組織学的特徴がある。そこで、本疾患に対する治療戦略として以下の方法を立案する。すなわち、唾液腺腺房の構造破壊による唾液分泌機能の改善法としては、(1)細胞の基底膜構造の破壊の原因となっているTNF-αの発現を阻害する方法 、(2)腺房構造の破壊が進行し、腺房の再生が困難な場合には、残存する導管細胞に AQP5を発現誘導させ、導管細胞に腺房細胞の機能を付与させる臓器再生の観点に立った治療法である。またAQP5の発現低下つまり唾液腺自体の機能低下による唾液分泌低下の場合には、 (3)TNF-αを制御しAQP5の発現を維持させることによって、唾液分泌の機能回復を目指す。このような治療戦略により、唾液分泌低下による口腔乾燥を根本的に改善させることを本研究の目的とする。 平成23年度はDNA脱メチル化剤であるデシタビンを、モデルマウスに投与し、唾液腺導管細胞におけるアクアポリン5の発現様式とその機能について解析した。 すなわち、MRL/lprマウスの腹腔内に デシタビンを投与した。投与濃度は未処理、2 mg/kgの2段階、投与間隔は週1回、週2回、週3回の3グループに分けて4週間継続投与する。デシタビンの最終投与から2週目にマウスを塩酸ケタミンにて無痛的に屠殺し、唾液腺を回収し、組織標本を作製した。未処理群と比較しシェーグレン症候群の組織学的特徴を解析したところ、検証した期間内において組織学的な違いは認められなかった。しかし、デシタビン投与群においては、導管細胞でのアクアポリン5の発現が増強しており、マウスの唾液分泌量を有意に増加させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に行った研究成果は、当初予定していた3つの研究目標、すたわち(1)細胞の基底膜構造の破壊の原因となっているTNF-αの発現を阻害する方法 、(2)腺房構造の破壊が進行し、腺房の再生が困難な場合には、残存する導管細胞に AQP5を発現誘導させ、導管細胞に腺房細胞の機能を付与させる臓器再生の観点に立った治療法、(3) TNF-αを制御しAQP5の発現を維持させることによって、唾液分泌の機能回復を目指す方法のうちの(2)の項目について解析を行い、デシタビンが唾液分泌増加に対して、有効であることを示している。 研究期間は3年間を予定しており、1年目にそのうちの1項目について成果を挙げたことから、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はTNF-α中和抗体の有効性の検証について、モデルマウスを用いて行う予定である。 すなわち、シェーグレン症候群モデルマウス(MRL/lpr)の腹腔内に TNF-αの中和抗体を投与する。投与濃度は未処理、3 mg, 5 mg, 10 mg/kgの4段階、投与間隔は週1回、週2回、週3回の3グループに分けて4週間継続投与する。中和抗体の最終投与から2週目にマウスを塩酸ケタミンにて無痛的に屠殺し、唾液腺を回収し、組織標本を作製する。未処理群と比較しシェーグレン症候群の組織学的特徴を解析し、炎症性細胞浸潤や腺房構造の萎縮および破壊の程度をWhiteらの分類に従って評価する。その後、免疫組織学的解析によりAQP5の局在と強さを検討する。なお、AQP5の発現の強さは、組織標本からmRNAや蛋白を回収し、リアルタイムRT-PCR法やウエスタンブロット法により定量的に評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究においては、シェーグレン症候群のモデルマウス、TNF-α中和抗体、唾液腺組織の構造や評価のために使用するアクアポリン抗体、アクアポリンの発現レベルを評価するためのリアルタイムPCR用のプライマー、制限酵素などの消耗品を必要とする。また、本研究成果の学会報告や研究成果の論文投稿に研究費を使用する予定である。 なお、平成23年度は東日本大震災の復興財源確保の為に、科研費の30%削減されるという情報があった。昨年度は研究に必要な物品として微量紫外可視分光光度計(997,500円)を年度の早い段階で購入したため、以降の消耗品の購入を抑える必要性があった。従って、平成23年度の研究内容を一部変更することにより、価格の安い薬品を使用し、消耗品の総額が抑えられるように変更して研究を行った。 結果的には当初の交付予定の金額が全額交付されたため、繰越金(529,545円)が生じた。平成24年度への繰越金については、昨年度購入を見合わせた高価な試薬 (TNF-α中和抗体やリアルタイムPCR用反応酵素など)の購入に充てる予定である。
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