研究課題
本研究の目的は、口腔扁平上皮癌細胞(HST-1)および摘出がん組織における上皮増殖因子(EGF)受容体と浸透圧感受性クロライドチャネルとの細胞内シグナル伝達系を介した制御機構の解明である。以前よりVSORは細胞増殖に関係し、VSORを抑制することによりアポトーシスが誘導されることやVSORに対するEGF受容体の関与が報告されていた。我々の電気生理実験の結果においてもVSORのEGF受容体による制御が確認されていたが、その後の生化学的実験により、VSORの活性化および抑制のいずれの場合もEGF受容体のリン酸化およびその下流のAktおよびErkの両者のリン酸化が起きていることが判明した。詳細としては、低浸透圧刺激(245mOsM)時には一時的な(数十分単位)AktおよびErkの活性化が起き、細胞増殖が促進されたのに対し、阻害薬投与時にも、同様に一時的なAktおよびErkの活性化が起き、一度不活性化した後にアポトーシスが起きてくる日単位(24時間以降)より再活性化が起きることが判明した。このことは、HST-1細胞において、VSORによるEGF受容体下流のAktおよびErkの活性化が細胞増殖および細胞死の両者に関係していることが示唆された。一方で、VSORの分子実体を発見すべくTMEM16Aに焦点を絞り、RNA干渉により効果を観察し、電流としての減弱は確認されたものの、TMEM16Aの新規特異的阻害薬の投与によっても細胞死は起こらなかった。以上の結果から、TMEM16Aは浸透圧制御に一部関わっているものの、VSORの分子実体そのものではないことが判明した。今後、VSORの分子実体が解明され、そのことが口腔扁平上皮がん治療の一助となることが望まれる。
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Scientific Report
巻: 2 ページ: 979
doi:10.1038/srep00979
Acta Physiologica
巻: 2013(in press)
doi:10.1111/apha.12066