研究課題/領域番号 |
23592929
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中村 典史 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60217875)
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研究分担者 |
岸田 昭世 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50274064)
清野 透 独立行政法人国立がん研究センター, ウィルス部, 部長 (10186356)
岸田 想子 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40274089)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 歯原性上皮 / 歯原性腫瘍 / 骨浸潤 / 顎骨腫瘍 / Wnt / MMP |
研究概要 |
エナメル上皮腫は良性腫瘍に分類されるにもかかわらず、高度の骨浸潤能があり、高い再発率を有する。しかしながら、エナメル上皮腫研究のための細胞株がわずかしかないために、骨浸潤の分子生物学的メカニズムはいまだ不明の点が多い。そこで、本研究では、我々はHPVやSV40を用いない手法でエナメル上皮腫と正常口腔粘膜上皮細胞の不死化株を作成し、ほかの腫瘍で増殖や浸潤にかかわることが明らかにされつつあるWntシグナル経路とその標的遺伝子であるMMP(マトリクスメタロプロテアーゼ)-2、-9について調べた。 研究内容は、エナメル上皮腫と対照となる正常口腔粘膜上皮の不死化細胞を作るためにレンチウイルスベクターを用いて変異型のCDK4、cyclinD1, TERT(human telomerase reverse transcriptase)とドミナントネガティブ型のp53遺伝子を初代培養細胞に導入する手法で、エナメル上皮腫(AM-3)及び、正常口腔粘膜上皮不死化細胞株(MOE-1)を樹立した。Real-time-RT-PCRを用いて、エナメル上皮腫におけるWnt関連遺伝子及び、MMP-2、-9の発現を解析した。さらに、MMP-2、-9の酵素活性を解析するためにゼラチンザイモグラフィーを行った。 その結果,エナメル上皮腫細胞株AM-1、 AM-3では、MOE-1と比較してWnt-5a、Frizzled-2、MMP-2、-9の高発現が認められ、MMP-9の活性が高いことがわかった。さらに、AM-3細胞ではWnt-3aタンパクで刺激するとMMP-9の活性の上昇が認められた。今回の我々の研究では、エナメル上皮腫においてWntシグナルの活性化がMMP-9の発現上昇を引き起こし、骨浸潤を起こす可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、新たなエナメル上皮腫由来の不死化細胞株(AM-3)と対照として正常口腔粘膜上皮由来の不死化細胞株(MOE-1)の作成に成功し、その成果は科学雑誌に1編が掲載され、1編が投稿中である。さらに、研究の結果からエナメル上皮腫細胞株AM-3で,Wnt受容体が正常口腔粘膜上皮由来のMOE-1よりも著しく強発現していること、また、Wnt-3aタンパク刺激により、β-カテニンタンパク質の蓄積とMMP-9mRNAの著名な誘導が認められた。Wnt-3aはマウス胎児において歯芽に発現していることが知られており、Wntファミリー遺伝子は成人のエナメル上皮腫細胞においても機能している可能性が高い。 これらのことから、Wntたんぱく質を含めた未同定の液性因子が、エナメル上皮腫細胞自身または周囲から産生されるか、エナメル上皮腫細胞内のWntシグナル異常などが原因となり、MMPなどが産生されてコラーゲンを分解を介して骨破壊や骨浸潤を促進し、また、破骨細胞や破歯細胞を分化誘導する。つまり、この疾患で「Wntや未知の液性因子が骨破壊や歯根吸収のシグナルとして働く」というわれわれの仮説を裏付けるものであった。現在は、コラーゲンマトリックスを用いた三次元的な細胞培養法で、エナメル上皮種の病態を解明している最中であり、よって、本研究は順調に伸展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、エナメル上皮種細胞を用いてコラーゲンマトリゲルチャンバーでの培養実験が完遂できなかった分、コラーゲンマトリゲル代が余剰金となって残存したが、次年度にコラーゲンマトリゲルチャンバーでの培養実験を実施する予定であり、余剰金はすべて使用される。 さらに、今後は、エナメル上皮腫が高度に顎骨に浸潤発育するメカニズムを解明するために、エナメル上皮腫細胞株と正常口腔顎顔面外科粘膜細胞株を比較して、前者のみが多量に分泌する液性因子(タンパク質)の検索を行う予定である。実験では、両細胞株を無血清培地で培養して、その培養上清を各種のカラムクロマトグラフィーを用いて分画して比較し、エナメル上皮腫に特異的な骨浸潤・破壊や歯根吸収に関わる可能性のある分子の精製、同定、作用の解析を行う。 さらに、同定したタンパクをsiRNAでノックダウンしたエナメル上皮腫細胞株を作成して、ヌードマウス顎骨に移植し、骨浸潤等に実際に関与するかを確認する計画である。これらの結果をもとに、エナメル上皮腫の骨浸潤を増悪させるリスク因子の確定へと繋げていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費で備品を購入する計画はない。研究費は主として細胞培養のための培地を含めた試薬、コラーゲンマトリゲルチャンバー、カラムクロマトグラフィー実験などの消耗品の購入に費やされる。また,本研究成果を国内外の学会に発表し、他研究者と情報交換するための交通費等として使用する。その他、論文の掲載料にあてる予定である。
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