研究課題/領域番号 |
23592930
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
砂川 元 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (30112452)
|
研究分担者 |
喜名 振一郎 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40422422)
仁村 文和 琉球大学, 医学部附属病院, 助教 (50457678)
|
キーワード | 分子標的薬 |
研究概要 |
抗癌剤の作用機序として、活性酸素の産生が関与することが報告されている。一方、癌細胞が発現している様々な受容体型チロシンキナーゼ(RTK)が、抗癌剤および放射線に対する耐性化に関与していることが知られている。この耐性化にも、抗癌剤や放射線曝露後に産生される活性酸素が関与していることが示唆されている。MetはHGF をリガンドとするRTK であり、抗癌剤および放射線耐性化のみならず、分子標的薬であるgefitinib に対する耐性化にも関与していることが知られている。しかし、これまで、活性酸素のMet に対する影響については不明であった。本研究では、抗癌剤曝露後に生じる活性酸素がPDGFα受容体とMetを介してHPV陽性癌細胞の耐性化に関与する可能性を検討した。実験には、抗癌剤や放射線などの酸化ストレスに対して耐性を有するHPV陽性子宮頸癌細胞株SiHa細胞を用いた。 SiHa 細胞に過酸化水素や抗癌剤であるシスプラチンを加えると、細胞内活性酸素濃度が上昇した。また、シスプラチンによりPDGFα受容体のチロシン残基のリン酸化とMet タンパク質が増加した。このPDGFα受容体のリン酸化とMetタンパク質の増加は、抗酸化剤であるN-アセチルシステイン(NAC)により顕著に抑制された。血清のない条件では、Metの活性化は認められなかった。MTT測定では、シスプラチンによる細胞死がイマチニブにより増強された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの結果から、HPV陽性子宮頸がん細胞株、SiHa 細胞において、シスプラチン処理により生じた活性酸素がPDGFα受容体の活性化とMetの発現を引き起こすことが明らかとなった。Metの活性化は、PKB/Aktを活性化して細胞死を抑制することが示唆された。本研究は、PDGFα受容体を発現しているHPV陽性腫瘍に対して、抗癌剤と分子標的薬であるイマチニブの併用療法が有効である可能性を示唆しており、今後の癌の化学療法に重要な知見をもたらす研究であると考えられた。本研究はインパクトファクター2.5の学術誌にすでに受理されており(Shinichiro Kina, Thongsavanh Phonaphonh, Feixin Liang, Hai Kuang, Akira Arasaki, Keiichi Arakaki, Toshiyuki Nakasone, Hajime Sunakawa “PDGF α receptor is a mediator for Cisplatin-induced Met expression” European Journal of Pharmcology (Available online 29 November 2012).)おおむね順調に進展している状況であると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究内容に関しては、専門性の高い内容となっており、今後は学会活動等を通して得られた知見を討議して臨床応用への足掛かりとしていく予定である。また、新たに臨床応用へと展開していく方法論を具体的に推し進めるために、ヒトサンプルを現在収集中であり、実際の臨床データとの整合性を検討していく予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
我々は現在、SiHa 細胞に対して過酸化水素刺激を与えた際に、Met の発現上昇が誘導されることを確認している。我々は、Met の発現上昇を誘導する因子が過酸化水素依存的に癌細胞から放出されていると仮定している。過酸化水素刺激の際に様々な抗増殖因子抗体を培養液中に添加して、Met の発現を減弱させる抗体を検討することで、Metの発現上昇に関与している細胞外分泌因子を探索する。癌治療後の血液中のPDGF の濃度を計測し、癌患者のその後の再発、後発転移との相関関係を調べる。我々は、抗癌剤依存的なMet の発現上昇におけるPDGF-BB の寄与を検討するために、PDGFR-αを阻害して、Met の発現が減弱するか検討する。臨床分野で広く使用されているPDGFR 阻害剤imatinib(Gleevec) (cisplatin と併用した場合には相乗的に肺癌細胞にアポトーシスを誘導することが報告されている(Molecular Cancer 2003, 2:1)を使用して、CDDP 依存的なPDGFR のチロシンリン酸化活性が抑制されるか検討する。
|